マーケティングに脳科学を取り入れたという「ニューロマーケティング」が、流行りつつある。いや、本当はどれだけ採用されているのか、知らないです。
当社のクライアントでも、ニューロマーケティングを取り入れられているところもありますし、近いジャンルのサービスを提供している企業もあります。関連の本も注目されるようになっているようですが、だからって普及しているのかどうかまでは、なんとも。
ただ“効果の曖昧な広告”ではなく、ITテクノロジーを駆使し“成果に応じた販促費用”へというより確実で、よりコスパの高いアプローチを求めるという要望が強くなっていることと同様に、脳科学を使って、確実性の高いマーケティングを行いたいと考える企業が増えていても、不思議ではありません。
脳科学の話題の中でも、もっとも盛り上がっているのが「ミラーニューロン」でしょう。ミラーニューロンについて、Wikipediaから引用すると、
-----------------------------------------------------------------------------------
ミラーニューロンは霊長類などの高等動物の脳内で、自ら行動するときと、他の個体が行動するのを見ている状態の、両方で活動電位を発生させる神経細胞である。他の個体の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように"鏡"のような反応をすることから名付けられた。他人がしていることを見て、我がことのように感じる共感(エンパシー)能力を司っていると考えられている。
-----------------------------------------------------------------------------------
とあります。
ミラーニューロンで検索すると、もう学習からモテから、ミラーニューロンを使ってどうのというブログが数多くあります。ミラーニューロンを使うと、なんだって、簡単に出来そうです(笑)
ミラーニューロンについて書籍では、そのまんま『ミラーニューロン』という、やたらと難しい本があります。ミラーニューロンの発見は、DNAの螺旋の発見にも等しいというような言われ方をされたりしますが、この本を読む限り、機能を明確に解き明かしてるわけでもなさそうです。
動作を模倣してしまうというだけなら、マジシャンや武道家が経験的に知っていることですし、意図を模倣してしまうということなら、演劇の世界の人たちが駆使していることでしょう。
この本では、こんな実験の話が出てきます。古典舞踏家とカポエイラの教師、これまで一度も踊りのレッスンを受けたことない人たち3グループに、古典舞踏の映像とカポエイラの映像を見せた。古典舞踏家は古典舞踏の映像のステップに。カポエイラの教師はカポエイラ映像のステップに他の集団よりも強く反応したそうです。直感的に、そんなの当然だろうよと思ってしまうのですが、ということはミラーニューロンそのものの本来の働きと考えるより、個々人の後天的な習慣や興味によって、反応する回路が出来上がっている。ミラーニューロンが発火したから、ミラーリングが起こっていると考えるのは、ちょっと無理があるのではないでしょうか。
こんな本もあります。「なぜ気持ちいいのか、なぜやめられないのか」という報酬系について語った『快感回路』という本です。これも分子レベルや基本的な脳の構造についても語られていて、やたらと難しいです。
人間は、セックスとか食事とか、種の保存のために快を仕込まれてる。でもそれだけじゃなくドラッグ、アルコール、高カロリー食、ギャンブル、お金儲け、エクササイズ、慈善行為に至るまで、同じように快感回路が作動し、ドーパミンなどの快楽物質が分泌される。それがある一線を越えてしまうと、「依存症」になってしまうと書かれています。読んでいると、これらを『快感回路』というネーミングにしたのもうなづけます。
ただ結論的に「経験により脳内の快感回路を長期的に変化させる能力のおかげで、人間は様々なものを自由に報酬と感じることができ、抽象的観念さえも快いものにできる。人間の行動や文化の多くはこの現象に依存している。しかし残念なことに、その同じプロセスが快感を依存症へと変化させてしまうのである」なんて書いてあります。ああ、なんだ。やっぱり後天的なのね、と思ってしまいます。
それじゃあ、ストレートに「ニューロマーケティング」について、語っている書籍はどうか。
『マーケターの知らない「95%」』という、世界有数のニューロマーケティング会社のCEOが、自社での研究成果をベースに、書かれた本があります。
読み進むと、アップル社のデザインが、最も効果的であるというような結果が出てきます。あれ、ニューロン的にはランディングページのような繰り返し繰り返し催眠的にメッセージするより、引き算のデザインの方がいいんだ。なんだ。ネット以前のデザイン論と違わないじゃん、とちょっと驚きます。高齢者には、悲観的な要素より、楽観的な未来を語る方が共感を得られやすいとか。女性向けのマーケティングでは、必ず情緒に訴える要素を入れる。などなど、どうも従来のマーケティングと、どこが違うんだろうという気がしてきます。デモグラフィックな分類で済んでしまうなら、なおさら。
人はモノを選んだ理由や買った動機を尋ねられると、後づけで合理的な理由をつけてしまいます。だからマーケティング・リサーチが、よりインサイトへと入って行くことは、必然的な流れなんでしょう。
だけどマーケティング全体ということになると、どうなんでしょうか。今の段階では、経験則的なセオリーで十分に通用しそうな気がします。ニューロマーケティングが科学的ではないと言いたいのではなく、わざわざ電極付けて調べるほどのことなんだろうか、というのが現状ではないでしょうか。普遍的ではなく、後天的に個人差があるということなんですから、ターゲット層だって、仮説から作る必要があるでしょうし。
ただ、回路を作ったり、発火させたりするという発想は、プロダクトそのものにもクリエイティブにも応用出来る面白い視点ではないかと思います。
回路を作る、発火させる。まるでネットの世界の話みたいですね。
あ、もしかしたら、ネットを使ったコミュニケーションも、ニューロンとして考えると面白いかもしれません。
0 件のコメント:
コメントを投稿