2017年3月31日金曜日

「猫まみれ展」尾道市立美術館のツイッター運用が、カンペキすぎる







尾道市立美術館がツイートした「猫と警備員の攻防戦」が話題になっています。尾道市立美術館に、なんども侵入を試みる近所の猫。それを優しく阻む警備員さんとの攻防。
もっとも拡散した3月22日のツイートは、これを書いている31日の夕方の段階で、84099リツイート いいねが99104という凄まじさ。




猫の動画もあります。




なぜこの猫が美術館に入りたいかといえば、大きなガラス越しに見える作品「猫も歩けば」が気になるから。



3月18日から始まった「招き猫亭コレクションー猫まみれ展」の開幕前日から、 近所の黒猫が目をつけたのですね。仲間がいる。こいつは味方か敵か、みたいに思ったのでしょうか。うちの猫も窓の外に知らない猫が来ると猫なで声を出したり、威嚇したりします。
ちなみに一番上の写真は、うちの猫のモフモフの脚です。猫まみれ展とは、関係ありません。

私も猫好きなので、尾道市立美術館のツイートには、いい!と率直に反応し、「猫と警備員の攻防戦」が拡散した理由も納得です。
でも、それだけではないんです。以前、森美術館について、こんな記事を書きました。
「村上隆の五百羅漢図展」森美術館のソーシャルメディア運用が、カンペキすぎて困る

森美術館のソーシャルメディアマーケティングは、とても巧みです。SNS、特にTwitterの運用には目を見張ります。でも尾道市立美術館は、公立。東京にいくつもある巨大な公立美術館だって、どこもこんな風にはやれません。もっぱらお金のかかる宣伝をしているだけです。森美術館が予算やブレーンも豊富な大企業だとしたら、尾道市立美術館は無名なローカルの中小企業みたいなもの。圧倒的に不利なスタートラインなのに、あまりに見事です。
地方自治体が「恋するフォーチュンクッキー」や「逃げ恥」でYouTube動画を作るのとは、わけが違います。
尾道市立美術館ウェブサイト


拡散する渦を、さらにかき回している@bijutsu1


尾道市立美術館の公式ウェブサイトTOPページには、コンテンツ扱いでTwitterへのリンクバナーが貼られています。いや、Twitterに限らずSNSの投稿は、コンテンツなのです。






展示内容の情報発信ばかりか、ウェブメディアや新聞、テレビで取り上げられたこともツイートしたり、一般の人たちの言及をリツイートしたりしています。つまり尾道市立美術館のTwitterアカウント@bijutsu1 を見ていれば、「猫と警備員の攻防戦」周辺の話題がわかります。
そしてそのことで、話題の拡散がループして、さらに大きな渦になっていきます。

「猫と警備員の攻防戦」は、ネットメディアではねとらぼ、BIGLOBEニュース、Withnewsなどに取り上げられ、それがYahoo!ニュースにも取り上げられています。この手の流れで重要なのは、当たり前ですがその順番。

 ◯Twitterやインスタで話題
 ↓
 ◯ネットメディアが取り上げる
 ↓
 ◯テレビや新聞が取り上げる


そして、そのすべてを@bijutsu1が取り上げています。




広く長く、猫好きをひきつける@bijutsu1


普段から美術館に足を運ぶ習慣のある美術好き、という人はそれほど多くありません。ほとんどの人が、アートを見に行くという狭い動機以外で足を運ぶのです。
「村上隆の五百羅漢展」のときには、作品を背景に自撮りする女性が少なからずいました。外国人では、半分以上が自撮りしていたかもしれません。

尾道市立美術館だって「猫と警備員の攻防戦」がどれだけ話題になっても、「猫まみれ展」に足を運んでくれなければ、意味がありません。予算的にもTwitterが主戦場なら、広く長く話題が続かないと、来館者数を増やせません。
だからメディアに取り上げられたこともツイートで紹介し、一般ユーザーの言及をリツイートしたりしているのです。

それ以外でも、尾道市立美術館のTwitterアカウントは抜かりありません。「招き猫亭コレクションー猫まみれ展」は3月18日からですが、2月22日「猫の日」にもちゃんと乗っかって前告知しています。



SNSばかりか、あらゆるメディアで猫の話題はキラーコンテンツのようです。過疎化著しいGoogle+ でも、猫のコミュニティは活況です。
猫の日には多くの企業が乗っかりますが、商品やサービスとの関連性のないところがほとんどです。Twitter上で猫の可愛い写真や動画を見たいと、「猫の日」を検索する人に引っかかっても集客や購買にはほぼ関係ありません。それで関連商品やサービスを作る企業が出て来るのです。
2月22日「猫の日」に、企業アカウントはどう乗っかったのか

尾道市立美術館は猫まみれ展をやるのですから、関連性は濃く、写真だけで終わらず、なにこれと展示内容まで知ってくれる可能性はかなり高くなるはずです。
@bijutsu1は「アッ!!昨日(2月22日)の猫の日を忘れておりました」と、つぶやいています。これ、意図的にやっていたとしたら見事です。

トレンドに乗っかることは得策ですが、猫の日のような突風が吹き荒れているときは、あまりに多くのツイートがあるので、埋もれてしまうのです。Twitter内でトレンドをクリックして検索する(一覧を見る)人の目にとまるのは、画像や写真や動画の力が秀でているものだけ。すでにフォローしてくれている人は別にして、アカウントを知らない人を引きつける可能性が高くなるのは、タイミングをちょっと外した方がいいのです。



来館者数増加につながる可能性は?


尾道市立美術館に来館する人の、交通手段はどうなのでしょか。アクセスを見ると電車なら尾道駅からバスに乗ってロープウェイに乗るそうです。あるいはタクシーなら15分。
車なら山陽自動車道のふたつのICから、15分20分だそうです。
予想以上に、けっこう厳しい条件です。

でもいままでの来館者の平均が、車でなら1時間エリア圏内だとすれば、もしかするとTwitter初の話題で1時間半エリアにまで伸びるかもしれません。新幹線を使ってやってくる家族だって、出てくるかもしれません。
美術館にしては珍しく、家族を呼び込むイベントも行われています。

逆に美術館に行く習慣のない人、尾道市立美術館を知らない人、従来の来館者より遠いところに住む人たちにまでリーチしなければ、来館者数が増えることはありません。「招き猫亭コレクションー猫まみれ展」では、Twitterで火がついて、ネットメディアで爆発、テレビや地元新聞にまで広がったので、従来にはない広い層にまで届いたのは、間違いありません。

さらに、そもそも尾道は「猫の細道」があったり「キャットストリートビュー」があったりと、猫好きが海外からも観光にやってくる街。そんな人たちにも届いている確率は高いので、高い確率で来館するんじゃないでしょうか。
@bijutsu1のツイートには、位置情報が付いています。尾道へ観光でやってきて、「猫の細道」で写真を撮ってツイートした人が位置情報を付けている。それを見た猫好き、尾道に猫を見に行きたいと思っている誰かが、位置情報をクリックすると、@bijutsu1のツイートも出てくる。そんな知り方だってあります。この位置情報付きなのも、ポイントです。


とりあえず春休みが終わる4月の上旬までの土日は、家族の来館者が増える。猫まみれ展は5月7日までなので、GWは他県から訪れる人たちもいて大混雑と私は予想しますが、どうでしょう。



@bijutsu1は、スタッフが撮りためた美術館周辺の猫スナップをご紹介なんてことをしていて、話題の続け方としても上手だし、本気で猫好きなのか伝わってくるし、とても好感が持てますね。





2017年3月27日月曜日

プレスリリースが根本的に間違ってる気がするのは、私だけ?





重い重いプレスリリースがやってきた


少し前、ある企業からPDFになったプレスリリースがメールで送られて来た。届いたときから嫌な予感はしていたのだけれど、開いてみて絶句した。
とにかくデータが重い。すぐ気がついたのは、フォントが埋め込まれてる。商品写真ばかりか、まるで商品写真ように撮ったノベルティなどまで、とにかく写真が多いのです。

その企業の上の方の方とあったときに「プレスリリースは、どちらでお作りなんですか」と聞いてしまった。
内容がどうこう以前に、PDFの機能をほとんど知らないんだろうな感にあふれた書類だったので、素人がやっているんだろうなと思い込んでいた。ところが、素人ではなかった。
「どこか、いけませんか?」と問い返されたので、いやその、これは全部間違っていると思いますと正直に答えてしまいました。


プレスリリースは、誰に向けて出すものなのか?


プレスリリース、ニュースリリースと言うぐらいだから、報道してもらうためのもの。辞書的な言葉の定義はそうなるだろうけれども、報道機関に向けて書いてそれほどの意味があるでしょうか?
100歩譲って、報道機関やマスメディアに向けて書くとしても、あらゆる情報を網羅して、それを誰が読むでしょう。網羅したければ、ウェブサイトに掲載すればいいわけで、記者や書き手に興味を持ってもらわなければ、なにも始まらない。スペックなど事実項目は必要だけれども、あとは要点が簡潔にまとまっている方がいい。と思うのです。記者や編集者、ディレクターだって、それほどヒマではありません。


どれだけのメディアに出せるか、数や大きさに注力しても


PR専門の会社は、プレスリリースに限らず、取り上げてもらうための様々なアプローチを、出来るだけ多くのメディアにしようとするかもしれません。
でもそこを頑張るなら、メディアに媒体料を払ってペイドパブにすればいいのです。
そうではなく、純粋にメディアの切り口で取材してもらって取り上げて欲しいと考えるなら、リリースする商品やサービスに合うメディアを選んでアプローチした方がいいのではないでしょうか。

多くの場合、専門会社はマスメディアとのパイプを誇っていたりします。1時間のテレビ番組になったり、石原さとみさんがブランドの服を着てくれるなら別ですが、多くの場合情報バラエティ番組などで取り上げられるだけ。
認知度的にはプラスでも、誰がどういう状況で見ているかを考えないと、意味のないケースだって少なくありません。

下のグラフは総務省 平成26年版 情報通信白書[主なメディアの利用時間と行為者率]から抜粋して、簡略化しグラフ化したものです。平日の数字だけですが、休日も割合はそれほど変わりません。



これを見ると実質的にマスメディアはテレビだけで、しかも20代ではネット利用時間に逆転されています。
当たり前のことですが、誰でも接しているメディアが存在しないのですから、誰に向けて出している商品なのかをより細かく考えている必要があります。メディアの側も、当然そこに向けてコンテンツを作っているわけですから。

またネットのコンテンツはバズる可能性もあります。話題のリーチは、利用時間だけでは想定できません。


ネット上でプレスリリースを公開する意味は、どこに


上に書いたことは常識だと思いますが、ネット上でプレスリリースを公開する場合はどうでしょうか。自社のウェブサイトで公開するほか、リリースを配信するプラットフォームも増えてきています。
公開されているものをざっと見て行っても、ほぼ紙のものを、そのままネット上に上げているところばかりなので驚きます。業界向けに発信しておきたいということなのでしょうか。BtoBなら、それもあるかもしれません。

オープンなネット上で公開するということは、ネットメディア以外とは逆に、誰でも見るということです。従来のコンサバティブなメディアも、面白系やバイラルメディアだって見るかもしれません。
もちろん一般の人たちだって辿り着く可能性は、高いのです。
配信するプラットフォームだってSNSで発信することで、アクセス数を増やそうとしています。一般の人がわざわざ辿り着く場合は、その商品やサービスが何かしら気になっているからアクセスしているはずです。


最大の間違いは、記載するURL


先週、たまたまTwitterを見ていたら、郊外型紳士服チェーン店を核としたアパレル企業が、アディダスと組んだストレッチ素材のスーツをZOZOタウン限定で発売開始という告知を見ました。私は画期的な商品に思える。どんなのか知りたい。良ければ買いたいと思い、プレスリリースに書いてあるURLからZOZOタウンにアクセスしました。
するとその企業のタイムセール商品が、ずらっと出ています。あ、これはブランドページだ。じゃあさらに絞り込んで、とやっと辿り着きました。

同様にあるアンダーウェアメーカーが、部屋着で、そのまま外へ着ていけるマルチユースウェアを発売したことを知りました。これも画期的に思えました。若者を中心にパジャマが売れなくなり、特に街着としてのジャージがラグジュアリーブランドからもユニクロからも発売されるようになって、内と外との区別がなくなっているように感じます。
プレスリリースのURLをクリックすると、その企業のECサイトが現れました。下着がずらっと並び、さまざまなキャンペーンバナーが並んでいます。マルチユースのウェアを探してずーっとスクロールしていくと、ほぼ一番下にバナーがありました。クリックすると、商品一覧ページが出てきました。
しかし、そこにはプレスリリースにあるイメージ写真に写る商品がないのです。あるのは、なんの変哲もないジャージやTシャツにしか見えない商品… 


興味を持った、買いたいと思った人が、そのプレスリリースから飛んだ先が、直接的なページでなくていいでしょうか。飛んで、そのあともいろいろ探してくれるのは、よほど熱心な人だけです。以前からのファンなら、そうするかもしれません。

メディアは、どうでしょうか。強い関心ではなく「もしかしたら面白いかもしれない。ニュースバリューがあるかもしれない」と感じたぐらいで、さらに積極的に情報を探してくれるほど、社会的な意味で魅力のある商品でしょうか。

BtoC企業でも、記載するURLを、まるでIRのように考えているのかもしれません。



ソーシャルメディアマーケティングとして、イメージ写真との乖離はどうなのか


ネット上でイメージ写真に写っている商品が、発売されていないのは論外です。発売予定なら、それを明記すべきです。がっかりさせるだけではなく、反感を買いかねません。
そんな大げさな?

現実に販売されているハンバーガーが、広告写真とこんなに違う。貧弱だと晒されるのは、SNSの年中行事です。年中行事だから、もう炎上しないだけです。
食以外でも、それは同じ。SNSでウソだという意見が大勢を占めれば、どんなジャンルだってダメージは少なくありません。石原さとみさんがドラマで着た服が、すぐに売れてしまいます。錦織圭選手は、試合の休憩中ウイダーインゼリーを食べていますし、ユニクロのウェアを着ています。それらはウソではないし、現実に買うことのできる商品です。乖離していません。

ウソかどうかの判定は、法的にどうかではなく、あくまで社会通念上が基準。しかもその社会通念はSNS上のものですから、変わって行くスピードも早いのです。




2017年2月10日金曜日

[復活した?]マクドナルドのSNS運用は、なにが変わったんだろう


画像:マクドナルド渋谷東口店の看板

「マクドナルドが復活できた理由」を日経ビジネスが、2015年に入社されたマーケティング本部長にインタビューしています。
日経ビジネス

登録が必要な記事なので詳しくは読んでいただくとして、私が気になったのは幹部が語る「2015年までは、SNSで一方向のプロモーション発信しかしていなかった」という趣旨のところ。そう、確かにそうなんです。

2014年夏に起こった期限切れ鶏肉の事件への対応は、ひどかった。大騒動になっているのにプロモーション投稿を続け、Facebookページでは不都合なファンからのコメントを削除していました。私はこのブログに「マクドナルドは、どうしてソーシャルメディアで叩かれるのか」というタイトルで投稿しました。

日経ビジネスの一般公開されているところで、本部長がこう語られています。

チャンスを十分に生かしてないなと思いました。というのも、どんなに事件があって大変だとは言っても、それでも100万人、200万人のお客様が毎日来ているわけです。アプリも2000万近いダウンロードがあります。『Twitter』や『Facebook』のフォロワー数もすごい数があって、知名度も抜群だし消費者にはマクドナルドについて何かしらの思い出があるんです。そんな資産があるわりには、あまり使っていない印象でした

あまり使っていないどころか、資産が裏返っていたのです。
ところが特に2016年の後半からでしょうか。私はSNS運用のあまりの変わり方に、驚いていました。



リツイートをはじめたマクドナルドのTwitterアカウント


正直Facebookの運用は、あまり変わっていないように思います。Facebookのさまざまな変更にも対応していないように思います。
ところがTwitterの運用は、大きく変更されました。まずひとつは、フォロワーが投稿した、それほどお得ではないようなツイートのリツイート。あまりハンバーガーとしておいしそうではない投稿まで、リツイートしていたのでどうしたんだと思いました。
特別やりとりをしているというわけではありませんが、ただ一方的なプロモーションツイートをするのではなく、ファンとのコミュニケーションを始めたのでしょう。

それからツイート数の多さ。Yahoo!リアルタイム検索で「マクドナルド」を調べてみました。



ほぼ毎日、3000超の「マクドナルド」ツイートですが、2月7日は130,297件もあります。いったいこれはなんでしょうか。一般の人が急にツイートしたのか、それともマクドナルド公式アカウントが発信したのか、その両方なのか。
正解は、増加したほとんどがマクドナルド公式ではなく、マクドナルドのタ◯タルーレットキャンペーン返信用アカウントからのツイート。2月6日から2月7日までのツイートを表示させてみると、こうなります。タ◯タルーレットキャンペーン参加者への、マクドナルドからの返信がどこまでも続くのです。




「タツタが先か?タルタが先か、タ◯タルーレットキャンペーン」とは


タ◯タルーレット自体は、今もマクドナルドのサイトにあります。2月8日から「チキンタツタ」と「チキンタルタ」が発売されているのです。

Twitterでのキャンペーンは2月3日から始まり、2月7日で終了しています。どういうキャンペーンだったかというと公式アカウント@McDonaldsJapanをフォロー。
公式アカウントのハッシュタグが付いたキャンペーン投稿を、公式リツイートすると抽選で100人にマックカード2000円分があたるというものです。



その抽選方法なのですが、マクドナルドの公式アカウントではなく、キャンペーン返信用アカウントからルーレット動画が届きます。動画の最後に、残念ハズレかアタッタヨが表示されます。
キャンペーン返信用アカウントの投稿数は、317,719となっています。数字のつじつまがあいませんが、最大で31万人強が応募したということでしょうか。
とにかくとんでもないツイート数ですが、公式アカウントのフォロワーのタイムラインには出てきません。通常これだけのツイートが、もしタイムラインに出てきたら、どんなにファンでもファローを外してしまうでしょう。

仮に最大で31万人強が応募したなら、マクドナルド公式のキャンペーン投稿はとんでもなく拡散しています。何千万人もが見たのかもしれません。
そして応募した人たち宛に、ルーレット動画を返信したのですから、「チキンタツタ」「チキンタルタ」の発売認知は、繰り返し強化されたことでしょう。
プロモツイートはトレンドになっていましたし、ネットメディアへのパブリシティも強力に行われたようです。


これが上手かというと、超有名企業のプロモーションとしては、精度が高いものの、当たり前の手法です。ただマクドナルドほどの巨大な“資産”を持つブランドが、精度を上げると、それだけで破格の効果を上げられるはずです。



外へソーシャルメディアシフトしたマクドナルド


だからマクドナルドのSNS運用が、それほど巧妙になったのではない。Facebookの対応やTwitterでもリツイートの仕方は、ちょっと首をかしげます。
私はSNS運用自体よりも、むしろプロモーションの組み立て方や商品戦略、広報戦略などマーケティング全体が、ソーシャルメディアシフトしたところに注目すべきだと思います。

2016年以降の新商品のプロモーションや施策は、SNSに乗っかりやすい。SNS利用者が話題にしやすいものを次々に打ち出しています。パブリシティかどうかよりも、ネットメディアも記事にしやすいネタになっています。

タ◯タルーレットや第一回マクドナルド総選挙、裏メニュー、名前募集バーガーなどは言うまでもありませんが、他にも随所に変化が感じられます。
たぶん自然発生的だと思いますが、昨年3月に映画とのタイアップで出したハッピーセットのオマケの中にあった「鳴るよ!ドラえもんの鈴」を猫につけ、Twitterやインスタグラムに投稿する人が多くいたのです。
ちょうど1年ほど前からマクドナルドもインスタを始めていますが、それほど積極的ではないというか、試行錯誤されていたのだと思います。ところがこの「ドラえもんの鈴」投稿をRepostしているのです。

日本マクドナルド公式アカウントです。さん(@mcdonaldsjapan)が投稿した写真 -

公式アカウント自体の投稿がぜんぜん少ないのに、Repostするとは意外でした。インスタでは、ハンバーガーや商品そのものの広告的な写真を出すことはしないようです。
試行錯誤の段階だとしても、従来のマクドナルドのスタンスにはない、大きな転換に思えます。

その他にも、昨年11月29日にこんなクーポンを出しています。



マクドナルドが肉の日に何かしたことは、私の記憶ではですが、昨年以前はなかったと思います。もちろん2月9日も、投稿だけのようですが



変化を感じさせるところはいくらでもあるのですが、こんな細かなところにも見つけることができます。

SNS上でネット上で、ユーザーやメディアがどう反応してくれるか、話題になるかどうか。マクドナルドの目線は、ソーシャルメディアシフトしたのだと思います。





2017年1月27日金曜日

[サントリー金麦]マイクロインフルエンサーからの話題の広がり方





サントリー金麦といえば、テレビCMもバンバン打っています。特別ソーシャルメディアを重視しているわけではないでしょうが、インフルエンサーの使い方が上手だなぁと思うのです。
最近はマイクロインフルエンサーという言葉も聞くようになりましたが、上手い使い方だなと思えるブランドは、そんなにありません。ステマもどきのところも、少なくありません。ところがサントリー金麦は、そこのところを上手に拡散し続けているのです。


それでマイクロインフルエンサーって、なに?


アメリカでは10万人100万人というフォロワーを持つ、セレブを使ったインフルエンサーマーケティングが盛んです。100万人というと、どんなジャンルでもビッグスター。ちなみにトランプ新大統領のTwitterフォロワー数は、なんと2200万人!(2017年1月現在) 
ただ膨大なフォロワー数を誇り、莫大な影響力を持っていたからといって、企業とコラボしてどれほどの意味があるでしょうか。

たとえば日本では、渡辺直美さんのインスタフォロワーが600万人に迫る勢いです。もし渡辺直美さんが企業とコラボしたら、その商品は一気に大きなリーチを得るでしょう。でも渡辺直美さんと関係の薄い商品やブランドなら、フォロワーは冷めていくはずです。だからジャンルが限られます。
これはコラボではないようですが、マッチしていますよね。


インフルエンサーといっても、その人が本当に製品やブランド、お店などのファンならフォロワーにも伝わりますが、なかなか難しいはずです。
過去にこんなことも書いています。
『インフルエンサーって、誰?』


マッチしたとしてインフルエンサーに依頼しても、費用が高くつき、エンゲージメントも低調。そこでアメリカでは、マイクロインフルエンサーが注目されているのです。マイクロインフルエンサーとは、概ね1万人以下のフォロワー数を持つアカウントだとされています。

ところが、そのマイクロインフルエンサーマーケティングもバブルで、長くはないとする人もいます。
DIGIDAY 「マイクロインフルエンサーのバブルは、そのうち弾ける」

記事を読んでいると、どうもインフルエンサーだけではなく、マイクロインフルエンサーマーケティングについても、ファンかどうかという視点に欠けている気がしてなりません。広がっても、好感を持ってもらえるかどうかは別問題なのに。
また日本ではインフルエンサーもマイクロインフルエンサーも、ステマ手法のひとつとして使われているようなところがあって、何かおかしい気がします。根本的にソーシャルメディアの時代を、まちがってとらえているのではないでしょうか。

そんな中、マイクロインフルエンサーの使い方が上手だなと思うブランドがあります。サントリーの[金麦]です。


SNSの、あらゆるところに[#金麦のある幸せ]と[#金麦のある食卓]


インスタグラムを見ていると、#金麦〜というハッシュタグをつけた投稿をよく見かけます。ハッシュタグ#金麦 はサントリーからのプロモーションではなく、以前から見かけました。


プロやプロに近い写真を撮る人、一般の人も投稿しています。現在、ハッシュタグ#金麦 での投稿は40,600あります。人気の投稿は商品がメインではなく、ユーザーが料理や食卓の小物として使っているもの。
パッケージの見た目がいいのか、本当に好きなのか、インスタに合うブランドなのか。とにかくこれだけ使われているのですから、後押しすればいいのです。


コミュニティサイトで「金麦と過ごすちょっと幸せ時間」を募集


サントリーの公式サイトには、金麦のブランドサイトの中に、[金麦スタイル]というレシピやちょっといい暮らしの情報などを扱うコミュニティサイトがあります。そこで毎月のテーマにそって、TwitterやInstagramに#金麦のある幸せ をつけて投稿すると、抽選で毎月50名に6缶がプレゼントされるというキャンペーンをやっています。2017年1月のテーマは「金麦とカレー」。
本当に一般のユーザーなので、シズル感などには乏しいですが、数が集まると魅力的です。


投稿をチェックすると、マイクロインフルエンサーというよりも、本当に一般のSNSユーザーです。
これをよくあるプレゼントキャンペーンじゃないと思う人もいるかもしれません。でもよくあるのは、プレゼントが欲しいだけで応募してる人しか集まらないやり方です。それだと見た人やフォロワーには何も響きません。
しかし #金麦のある幸せ をつけているのは、前から料理や食卓の風景を投稿している人が多いのです。金麦あるし、じゃあカレーを作ってハッシュタグ付けて投稿しよう。抽選に当たればラッキーだし ぐらいの動機でやっている人がほとんどではないでしょうか。


マイクロインフルエンサーを使った #金麦のある食卓 はブログからSNSへ


金麦のある食卓は以前、レシピサイトでアイデアを募集して表彰してプレゼントするなど、ブログを中心に展開していました。2014年まででしょうか。
それがこのところはInstagramなどに移行しているようです。

お休みの日はいつも、まだ明るい夕方から始まる我が家の晩酌。 サントリー様からいただいた#金麦 で先日も乾杯🍻 旦那氏に日頃なかなか口に出して言えない「#ありがとう 」の気持ちをこめて、おつかれさま!のシールをペタリと。 ・ おつまみは、2色の大根と大葉を使った大根サラダ、ツナと人参と紫玉ねぎのラペ、そして立派な毛ガニ🦀 北海道から届いた毛ガニを、食卓で解体しながら食べる楽しさったら🙌 そのまま食べたり、三杯酢で食べたり、蟹味噌までしっかり美味しくいただきました🦀 この後、旦那氏作のモツ鍋を食べて満腹に。 またしても食べすぎな、我が家の#金麦のある食卓 なのでした😋 ・ #ありがとうの金麦 #おうち居酒屋 #ふたりごはん
かおしさん(@cao_life)が投稿した写真 -

Twitterでも投稿されていますが、Instagramが主体のようです。Instagramで、料理とインスタ料理写真のプロたち、イコール料理周辺のマイクロインフルエンサーたちは「サントリー様からいただいた」と書かれていますので、経路が見えませんがサントリーからのアプローチでしょう。

ところがプロたちばかりではなく、Twitterも含めて一般的なユーザーたちが、サントリーから何ももらってもいないのに、#金麦のある食卓 を使って投稿しているのです。つまり幸せな食卓、あるいは素敵な食卓には金麦が合う という金麦のSNS内ブランディングが成功していると言えるでしょう。
レシピや盛りつけ、テーブルセッティング、写真の撮り方などなど。Instagramの中の料理クラスタに対する、マイクロインフルエンサーたちの影響力は絶大です。影響された一般ユーザーは、それぞれフォロワーを持っています。

発泡酒/ビールは、どれだけマスで認知度やイメージを上げていても、お店やネットの販売時点に様々なプロモーションが存在していて、ブランドスイッチが起こりやすいはずです。
だから日常的に、イメージに接してもらう必要があります。またどうせ料理や食卓の風景を投稿するのだから、金麦にしておこうとする人だっているはずです。


インフルエンサーマーケティングと言われているものは、ほぼ広告。マイクロインフルエンサーマーケティングと呼ばれているものは、ほぼステマ。
でも本来のマイクロインフルエンサーマーケティングとは、サントリー金麦のような手法なのではないでしょうか。



ネット社会以前、流行現象を感染だと見なして解き明かしたマーケティングの名著『急に売れ始めるにはワケがある』では、感染には三つの原則があるとしています。その一は「少数者の原則」です。ソーシャルメディア全盛の時代になっても、同じではないでしょうか。


急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則