2016年11月30日水曜日

ソーシャルメディアが加速させる、ファッション業界のシステム崩壊


TOM FORD


9月7日(日本時間では9月8日)トム・フォードは、2016-17年秋冬コレクションをライブストリーミングでニューヨークから世界に向けて配信。そして配信終了後にショップに行くと、見たばかりのコレクションが販売されているという“SEE NOW,BUY NOW”をやったというのです。

トム・フォードは、サンローランおよびグッチグループ全体のクリエイティブ・ディレクターを歴任したハイファッションの代名詞的デザイナー。ラグジュアリーファッションすぎて、あまり一般的ななじみはありませんが、六本木など一部地域や芸能人には高い人気があります。またパクリまくられることでも有名です。


トム・フォードは、どうして“SEE NOW,BUY NOW”に行ったのか


その動機はAFPによると、「世界は”immediate-即座“という考えが増えました。現在のコレクションの発表方法は、発表してから実際に入手できるまで約4カ月の期間が必要で、それは時代に沿った考えとして理解ができない状況になっていると思う」とのことです。
「トム フォード」コレクション発表後すぐ発売スタート


いろいろ書くよりも、この動画を見てください。ショーの前日、VOGUEのインタビューに答えています。See Now Buy Nowだけではなく、ソーシャルメディアの影響やインターネット後の世界についても率直に語られています。

トム・フォードが語った、最新See Now Buy Nowコレクション。





「業界のイベント」から「消費者志向のショー」に変更したいCFDA


今年の1月、WWDにこんな記事が出ていました。アメリカファッション協議会(CFDA)は「シーズンの半年前に、エディターやリテーラーなど限られた観客を対象にランウエイショーを行い、消費者がそのアイテムを手にするのは半年後、という現行のファッションシステムはもう崩壊している」と考えているというのです。


ダイアン・フォン・ファステンバーグCFDA会長は、「デザイナーからリテーラーまで、あらゆる人たちが、ショーについての苦情を申し立てている。ソーシャルメディアが発達したため、人々は混乱しており、現行システムがどうにも機能しないようになった」と述べる。「消費者がインスタグラムやウェブサイトで見た服を買いにショップに行っても、6カ月待ってくださいと言われてしまう。もうこれからは消費者優先のショーにした方がいいと、誰もが考えているのではないかしら」。


CFDAはボストン・コンサルティング・グループに、将来のファッションショーの在り方を明確にするための調査を依頼したとも書かれています。
未来のファッション・ウイークは「業界のイベント」から「消費者のイベント」に!?


その調査結果や提案が、BCGから行われる前に、トム・フォードは先駆けてやってしまったというわけですね。
ただWWDの記事にもあるように、システムは崩壊していないと考える人も少なからずいるようです。ラグジュアリー顧客は「待つことを楽しむ人もいれば、先行プレビューを見て、先に手に入れる特権を欲しがる人もいる。誰もが春の服のランウエイショーを2月に見て、それを2月に買いたいと思うかというと、それは疑問だ」という意見も。

どうなんでしょうか。日本ではラグジュアリーブランドではなくても、先行予約会なんてことを多くのセレクトショップなどでもやっています。母集団が少なくても、人とは違うものを買いたいというクラスターには、有効な方法だという気がします。数量限定発売などで行列ができる現象も、同じことだと思います。

もうひとつ、トム・フォードに限らずラグジュアリーブランドがショーを行うと、必ず模倣される。ハイファッションの傾向がトレンドの幹をつくるのですから、当然パクられてしまいます。ディテールレベルだと、すぐにファストファッション化されてしまいます。できるだけ回避するためにも、デザイナーの側からすればSEE NOW,BUY NOWでやりたいと考えるのが自然な流れではないでしょうか。



「消費者志向」とは、タイミングを合わせることだとしたら


「業界のイベント」とは、バイヤー、プレス、ショップなど関連業界に向けたプレゼンテーションで、受注・生産のためのお披露目会のようなもの。それが「消費者志向のショー」になるとどうなるでしょうか。

CFDAの会長はアポイントメント制プレゼンテーションなどで、リテーラーやプレスには半年前にコレクションを披露し、受注するというやり方もありで、「そしてオン・シーズンになってから、消費者を招いたランウエイショーを大々的に開催してショップに並んでいる商品を披露すれば、ソーシャルメディア現象の恩恵を丸ごといただけるわ。現行システムで得をしているのはコピー業者だけよ」と考えているようです。

情報の流れ・拡散のピークだけで考えれば、ラグジュアリーブランドなら私は順番が逆のような気がします。熱心なファンとプレスを招いた小規模なショー。それからリテーラーを招いた受注会の順ではないでしょうか。
同時に見せても、プレスより先に熱心なファンがソーシャルメディアで拡散してくれます。ネットメディアでも、ニュース系はスピーディに発信しますが、マガジン的なところはそうでもありません。
ともかく熱心なファンが気になったアイテムを発信し、拡散される。リテーラーは勘や今までの傾向よりも、ソーシャルメディアの評判を見ながら発注する方が確実に思えます。


そしてその先には、もちろんブランドの投稿からそのまま買えるリアルなSEE NOW,BUY NOWがあり、中飛ばしがあるのかもしれません。
ラグジュアリーブランドにとっては、先行市場を確実に、ダイレクトに手中にすることが最優先ではないでしょうか。ファッションに特徴的にお金を使うのは、どんな調査でもごく一部です。


渋谷の街頭で行われているイベントを見ていると、「撮影禁止」の札を掲げているものも半数近くあります。後日、公式の動画やメディアに加工されたもので出て来るのですが、拡散度合いはやはり低い。一般の人のソーシャルメディアでの発信のピークは、とっくに終わっているのです。



トム・フォードがVOGUEに語っている言葉が印象的です。

だってもう、そんな世界は存在しないんだから。
もう存在しないことを考えることはできない。



 株式会社イグジィット ウェブサイト

2016年11月7日月曜日

ソーシャルメディアに対応する組織と、対応しない組織




ひとり遅い昼を食べていたら、すぐ目の前でノートパソコンやタブレットを使いながら新商品のマーケティングについて語っている人たちがいました。渋谷周辺のカフェやファミリーレストランでは、こんな場面に遭遇することが珍しくありません。


実感がないのに、日経新聞的なとらえ方をする人たち


ユニークな商品だな。ネットで完結するし売れそうだと思いながら、聞くとはなしに聞いていたのですが、経営者らしき人が、広告はしない。ソーシャルメディアだけで売ろうと思うと発言していました。今どきです。
ところが「ユーザーの属性データなんかをグラフにして、毎日インスタに投稿するのをルーティンにするとか」と続けました。まわりの人もうなずいているのです。私は思わず顔をあげて、どんな人たちなのかじっくり見てしまいました。
インスタグラムを、自分自身ではやっていない人たちなのでしょうか。そのあと社内で、実際にインスタグラムを使っている人たちが意見するとは思いますが。

インスタグラムでも、たとえば文字中心で動画にしている「広告」はあります。でもよほどキャラクター化するならまだしも、グラフを「投稿する」のはないでしょう。しかも毎日だなんて。
日本経済新聞に恨みはありませんが、私は仕事でこういう話をされると「日経新聞の読者にアピールするのですか?」と、言ってしまいます。


投稿するものがない、何を投稿すればいいのかという依頼


先日、ソーシャルメディアで投稿するネタがない。何を投稿したらいいか、御社に運用を任せた場合の見積もりも欲しいという依頼がありました。
少しだけ取引させていただいている企業なので、おおよそは理解しているつもりです。BtoCだし、商品としてもSNS向きです。爆発的な効果をあげることは可能だと思います。ただ…

担当者の方にお会いし、提案をしました。現状では広告に使った写真とコピーを、FacebookやTwitter向けのサイズの画像にして投稿されています。これはもちろん必要なのですが、SNSでは公式発表を知りたがる見たがる人は、ほぼいません。中の人の個人的な実感や、個人的な視点のある写真の方がアピールできます。
なんども書いていますが、タレントの宣材写真よりも生写真、オンステージよりもオフステージ、日常のシーンの方が拡散します。
広告では伝えられない細かな情報、ニッチな視点だって好む人がいますし、アピールできるかもしれません。ファンならなおさらです。
アジアの四大妖術と、すっぴんブームの交錯する関係

またフォローしてくれている人とのコミュニケーションや、アクティブサポートもあります。具体的にその企業に商品について書いている人のツイートをお見せし、こういう情報を教えてあげることだって出来るじゃないですかと説明しました。


投稿するネタがないのではなく、組織が対応していないだけ


この企業では担当者のほか、各部署から代表が出て、SNSで何を投稿するかのミーティングがあるそうです。広告に使ったものを使うのはすぐ決済が出るけれども、それ以外は決済がなかなか出ない。というより何も返ってこないとおっしゃるのです。
ですよね。私も、知っているだけにたぶんそうだろうなと予想していました。
それだと何を提案しても、誰が運用しても、投稿できません。

SNSを仕事をしている会社に依頼しても、何も投稿できません。お金の無駄です。
多くの会社でSNSといえばFacebookが好まれますが、それは経営層の知るSNSがFacebookだからです。ところが企業や団体のFacebookページの投稿は、軒並みリーチを減らしています。簡単には個人のタイムラインに出て行かないのです。表示させることができる有利な投稿タイプは動画。
フェイスブックは動画を優遇してる! そう考えたのは妄想じゃなかった?

しかも今ならライブ動画を露骨に優遇しています。ところが動画の絵コンテを作って会議にかけ、修正・変更をし、決済をもらう。ライブじゃないなら、撮影し、編集して、また会議にかけ、修正・変更をし、決済をもらう。そんなプロセスに何日もかけるなら、CM並みの制作費がかかるかもしれません。

かなりのプロセスと費用をかけたのではと想像されるものも、あることはあります。
ウェンディーズ、Twitter「ライブ配信」で30万ビュー達成



話題やアルゴリズムが変化するスピードは、肌で知る


成功例はあるものの、ほとんどのSNSのアルゴリズムは頻繁に変わっています。またその日、その時の話題の流れで、拡散され方は大きく変化します。
拡散する大きさもスピードもだんとつのTwitterでは、まずその日の流れを考慮しないと、炎上のリスクさえあります。災害や事件などが発生した場合を考えれば、分かりやすいでしょう。その日その時のプラスの流れにうまく乗ることができれば、成果は莫大になります。
今日は新商品の発売日だ。社会的に大きな関心になっている出来事が発生しているけれども、どうしても投稿する必要があるのなら広告に使った写真とコピーをリメイクしたものでいいのです。後日、生写真的な、ニッチな、パーソナリティの見える投稿を追加し続けて行くのが効果的だと、私は考えます。ただ、その決定は即座にやらないと何も出来なくなってしまいます。

つまりはあらかじめ、オープンにできる範囲が明確になっていること。意思決定のプロセスを、出来る限り短すること。観察しているだけではなく、実感でSNSの面白さや反応を感じている人が担当者になることが必要不可欠です。
それが無理なら、SNSでは広告を使うしかないでしょう。
もっともその広告表現だって、SNS的でなければ効果がないのですが。


ちなみに、PPAP ペンパイナッポーアッポーペン/ 死神リュークfeat.ピコ太郎の動画、11月1日の公開ですから、決断から公開までのプロセスが速いですよね。
内容も面白いですが、PPAPカバーのキモはスピード。もし公開が1ヶ月先だったらどうでしょうか。11月7日の時点で再生1000万回突破してます。