2013年4月26日金曜日

ビックデータと瞬発力

このところ出回ってる面白いツイートがあります。

画像:ビックデータに関するツイート

日経コンピュータの記事を読んでないので、詳しいことは分かりませんが、このツイート自体は、とても面白い。世の中のビックデータバブルに対して、アイロニカルな視線を端的に言葉にしています。
私も、ビックデータバブルには、なんだそれ、と思っています。売る側もですし、一般の企業でもデータを集めさえすれば何かできると思っているところは少なくないでしょう。データがビックだから、解析する費用もビックなんだとしたら、それで出て来た有益なはずの知見は、お店にとって、どういう有益さがあるんでしょう。
常識的に考えられることを、科学的に解明したということ? そんなバカな、ねぇ(笑)




最近、話題になっている『統計学が最強の学問である』という、大胆なタイトルの本があります。著者は「あらゆる学問のなかで統計学が最強の学問であると。 どんな権威やロジックも吹き飛ばして正解を導き出す統計学の影響は、現代社会で強まる一方である」とおっしゃっています。この本の中にも、上のツイートと似たような話が出てきます。
「心筋梗塞で死亡した人の95%が生前に食べていて、強盗や殺人などの凶悪犯の70%以上が犯行前24時間以内に食べていた物があります。この危険な食べ物を禁止すべきか」
この危険な食べ物とは… 答えは、ご飯(笑) これは適切な比較をしていないと。
適切な比較とはどういうことかというと、四分割表による比較ということになるでしょうか。そこで出てくるのが、19世紀のロンドンで流行したコレラ。疫学の最初の研究が、この時に始まったそうです。ロンドン中の医師や科学者、役人が対策を繰り出したが、どれも効果がない。ところがスノウという外科医が調査したところ、水道会社Aを利用している家が水道会社Bを利用する家より8・5倍も死亡者が多かったので「とりあえずAの水は使うな、以上」という解決策を打ち出した。これにより、何十万人もの命が救われたといいます。 つまり因果関係はわからないけども、相関関係があり、それが統計学として、疫学的に有意であるということでしょうか。
そりゃあもう相関関係で判断できるなら、とてもスピーディです。




じゃあこれがダイエットの方法なら、どうでしょうか。毎年、無数のダイエット方法が出てきますが、効果があった人、なかった人を四分割表で比較していくと、最も効果的な手段が見つかるでしょうか。短期的に体重が減ったという結果だけなら、カンタンかもしれません。でもそれによって、シワシワになったとか、バストが小さくなったとか、2ヵ月後にはリバウンドしたとか、そんな副作用的なことまで含めるとどうでしょう。
医薬品だって、予期せぬ副作用が出てくるのに、何十年経ったあとのことなんて、実際は誰にも予想できないでしょう。
疫学も、何十年先のことまでは考慮していないようです。考慮していたら、とてもじゃないけど、スピーディには結論を出せない。良くも悪くも、そこのところを押さえておく必要があるのではないでしょうか。




つい先日、クライアントの方からこんな話を聞きました。その企業のトップが、ある世界的なコンサルから「スーパーボウルにおけるオレオの素晴らしい対応」についての話を聞き、「当社もオレオのような対応ができないのか」と社内でおっしゃったそうです。

スーパーボウルでのオレオの対応とは、有名な話です。
WIREDから、抜粋します。
「第47回スーパーボウル」の第3クォーター中に34分の停電が発生したが、オレオのソーシャルメディア・チームは、その絶好の機会をうまく利用したのだ。「停電? だいじょうぶさ」というツイートとともに、スポットライトの当たったオレオの画像。そこには「暗闇でもダンクする(オレオをミルクに浸す)ことはできる」というキャプションが付いていた。

このツイートは公開直後から注目を集め、リツイート数は15,000近くに上り、「Facebook」の「いいね」の数も20,000件を上回った。ビヨンセのハーフタイムショーほどではなかったにしても、クッキーメーカーのちょっとしたジョークとしては非常に印象的な数字だ。



画像:WIRED オレオの記事


スーパーボウルのテレビ放送は、全米が注目する超ゴールデンタイム。広告主は巨額の費用を費やして、CMを流します。オレオもCMを流していたのですが、ソーシャルメディアというタダ同然のツールを使って、CMを流すより、費用対効果ではもしかしたら高い効果を上げたのかもしれないというところが、ポイントなんだと思います。

でも、あ、しかしですよ。ものすごく誤解があると思うのですが、WIREDによれば、「スーパーボウル中に何が起ころうとも、15人のソーシャルメディア・チームがオンラインで対応できるように待機していたということだ。コピーライター、戦略を立てる人、アーティストたちが、10分以内であらゆる状況に対応できる状態で構えていたのだ」そうです。

しかも、CNET News(元記事はCBS Interactive)によると、「Oreoの幹部陣が部屋に待機し、いつでも引き金を引ける状態にしていたことだそうです。だから、最小限の時間とわずかな費用で、素早く行動できたということでしょう。私はてっきり、ソーシャルメディア・チームが独自に判断して、発信したのかと思っていました。

大抵の組織は、そんな風に出来ませんよね。瞬時に判断して、瞬時に発信することが、最も効果的なのに、です。オレオの成功例を世界的なコンサルが事例に挙げるなら、ソーシャルメディアの効果的な使い方としてよりも、そういう意思決定の速さだったり、経営層が現場に密着しているような組織になりましょうというレクチャーの方がはるかに有益だと思います。離れた場所から引き金を引いても、当たらないですから。




最初に書いたビックデータ神話に関するツイート。今どき、夏だってブーツを履いてる人は、けっこういます。冬場だって、流行のタイプだから売れてるにしても、立地によって、かなりタイミングが違うはず。トレンドの先取りなのか、終わりの方なのか。人によっても違うでしょう。
明日、雪がふるという天気予報なら、いつもとは異なるタイプが売れるかもしれませんし、異なる客層が来るかもしれないじゃないですか。

ドラッグストアが雨の時にはビニール傘を出したりとか、日差しの強い日には日焼け止めを出したり、臨機応変な店頭づくりをしているじゃないですか。そういうタイムリーに変化するための判断ができる目安を、ビッグデータから解析できれば意味があるんじゃないでしょうか?
いや、もしかするとビッグデータに、さらにビッグな情報を加えないと、意味のある解析は出来ないかもしれないです。

「雨に日は肉の売上が高くなる」的なデータマイニングは、一度相関関係を知ってしまえば、それで対応できる。でもタイムリーな因果関係を捉える方が、もっと重要ではないかという気がします。
そしてたぶん、タイムリーな因果関係は販売現場が一番実感してて、経営層が瞬時の判断をしない、できないのではないでしょうか。
相関関係なら、競合だって、すぐにマネできるわけですし、前例があれば、慎重な人も追従しやすい。

耐久消費財などは別にして、ソーシャルメディアの時代には、対応するスピードこそ命。



2013年4月24日水曜日

『東京ディズニーリゾート30周年』の新しさ

今月15日に、東京ディズニーリゾートが30周年を迎えたということで、CMだったりテレビでのパブリシティが盛んです。
私はリゾートじゃなくて、ランドが30周年でしょう? とちょっとツッコミながらも、けっこう感慨深いものがあります。ディズニーランドの仕事は10年ほどやらせていただいて、かなり深いところを知っています。閉園中のアトラクションの中にも入っていますし、仕事している時は、毎年お食事券付きの招待券を家族分いただいてました。仕事をするにあたって、最初に従業員向けの「ディズニーのフィロソフィ」についての研修も受けています。キャラクターの撮影も何度もしてますから、いろいろ知ってます。仕事ではないところでも、うちの奥さんと子供は都市伝説のような「クラブ33」に行っています。

と、そんなプチ自慢みたいなことを書こうとしたんじゃないんです。ディズニーはジャニーズ並の様々な管理をしてますから、危ないです(笑)




30周年経っているんだけど、いまだにディズニーが先頭を走っているんじゃないかなと思うことが、いろいろあります。それを書きたかったんです。ええ、ステマじゃない賞賛記事です(笑)


画像:ディズニーストア渋谷


いつも渋谷のディズニーストアを見ていて、シーズンに合わせた演出が上手だなと思っています。それ以上に、このストアの環境デザインは、ディズニーランドと同様の思想なんだろうと思って見ています。
かつてアメリカの大学で環境デザインを学ぶ学生に、教授がディズニーランドを見て来るように言われていたそうです。環境デザインというと、恐ろしく広範なジャンルを含んでいるのですが、それをもっとも体現しているのがディズニーランドだということでした。環境デザインとは何だと聞かれたら、私なんかに分かるはずもありません。たぶん環境デザイナーの出身、例えば建築だったり、都市計画だったり、インテリアだったりによって、おっしゃることが違うでしょう。でもあらゆる関係の設計を含んでいるのは、間違いなさそうです。
今でも日本では、もしかすると商業施設のVMD的なこととか、あるいは造園的な発想のものが多いかもしれません。実際のところ、日本の環境デザインは、東京ディズニーランドが出来たことで、まずその概念を知ったのかもしれないです。
時代考証的に、ここの柵には矢じりのようなものが必要だとなった時には、ディズニーランドなら、その先端の部分をゴムににします。夜間に清掃をします。清掃が終わった地面はどういう状態を基準にしているかというと、「子供が舐めても大丈夫なように」ということだったと思います。
日本には行政が作る施設の“ディズニーランダゼイション”なんて言葉もあるけれども、それは奇妙なかわいい化を指してるだけで、ディズニーがやっている環境デザインとは似ても似つかない。JR舞浜駅に行かれたら、駅周辺をチェックしてみてください。ディズニーリゾート風に作っているように見えても、実はぜんぜん違う。角だらけなことだけとっても、すぐに分かるでしょう。
その他にも、遠近法を巧みに使った錯覚による奥行きの演出とか、施設の外どころか、それぞれのテーマゾーンから他のゾーンを見せないための仕掛けとか、感心することだらけです。


最近、東急電鉄がやっている渋谷駅やその周辺などは、なんかもう何から何まで…(泣) 最近のショッピングセンターなどでも、考えられてるなぁと思える施設に出会ったことがありません。他のことを忘れさせる、あるいは気にさせない商業施設って、ちょっと見当たらないです。




世界初のディズニーランドがオープンしたとき、ウォルト・ディズニーは「ディズニーランドは永遠に完成しない。世界に想像力がある限り、成長し続けるだろう」と語ったといいます。もちろんリピーターを増やすためでしょうけど、飽きられてしまうような“夢と魔法の王国”なんて成り立たないですから。
実際、東京ディズニーシーが出来て、ふたつのテーマパークになり、イクスピアリやホテルなどを合わせて東京ディズニーリゾートという滞在型テーマリゾートになったことが、オープン以来最大の拡張。

いや拡張ってだけじゃなく、新しい層をどんどん取り込んでいるように思います。
昨年からはシンデレラ城での結婚式が始まり、デフレ知らずのウェンディングとはいえ、50名の披露宴込みで750万円。しかも人前で、来園者が観客となって祝福してくれるし、来園者にとっても大きなイベントだから、従来からあるウェディングプランとは比較にならないはずです。そりゃあもちろん、かなりのディズニー好きには、という前提があってですけど。
さらに驚いたのは、法的には無効だということですが、女性同士の結婚式が行なわれたということ。ブライダル産業のことは、ほとんど知りませんが、そんなに柔軟な対応ができるでしょうか。性的マイノリティ(という訳でいいんでしょうか?)LGBTの市場規模は、電通総研によれば昨年調べで5兆7千億円。日本の人口の5.2%が該当するそうです。もちろん、結婚式の金額は含んでないでしょう。
LGBTに向き合っている企業姿勢は、だんぜんプラスイメージになると思います。


このところ、やっているCMは「ディズニーおとな旅」というもので、親子篇や女友達篇があります。また「三世代ディズニー」というのもあるのですが、“大切な記念日はパークでお祝い”を訴求しています。誕生日ならバースデーシールというのがあって、これを貼っておくと、ちょっとしたパーク内でお祝いのイベントが起こるようです。またディズニーホテルでも様々なシチュエーションのプログラムが用意されているそうですから、ビジネスとしても大きいです。 
これらも初期からのファンの中高年化や、日本人のライフスタイル変化を上手に取り込めるものだし、エンターテイメントから大きくビジネスのカテゴリーを広げているんでしょう。
※残念ながら、Youtubeで公開されているこれらのCMは貼付けられないようになっていました。このへんが、オープンなのかどうなのか、いまいち分からないところですが(笑)


アトラクションでは、「スター・ツアーズ」がリニューアルなのか、5月7日から「スター・ツアーズ:ザ・アドベンチャーズ・コンティニュー」という名称になるようです。体感3Dシアター「スター・ツアーズ」が登場した時もオドロキでしたけど、さらにパワーアップするんでしょうか。3Dといえば、マイケル・ジャクソンの「キャプテンEO」がありましたけど、観た時には、本当に驚きました。日本では筑波万博でキューブが飛んで来るような、単純なものばかりの時代。そこにコッポラが監督した、現在でも通用しそうな3Dエンターテイメント映像が登場したんですから。※2010年に復活。常設化。
「スター・ツアーズ」は、いわばその体感版なので、どう進化するんでしょう。ディズニーが手がけるテクノロジーとエンターテイメントの融合は、ちょっとレベルが違いますよね。
「スター・ツアーズ:ザ・アドベンチャーズ・コンティニュー」に関しては、公式のYoutubeチャンネルで仕掛けている動画があり、さすがにこれは貼ることができました。おばちゃんたちは、まるでお約束の仕込みのようにも思えますし、リアルにいそうな気もします(笑)







最近出た『のめりこませる技術  ─誰が物語を操るのか』という本があります。
Amazonの紹介文を引用すると、
映画、TV、広告、本、ゲーム、ネット、マーケティング…… メディアによるストーリーテリングの方法は、デジタル技術の普及により、大きく変わった。受け手は物語に参加し、自ら物語を語りはじめ、作品の中に役割を得ていっそう夢中になり、やがて、抜けられないほど深くのめりこむ。そんな世界を創出するために、アメリカのエンタテインメント業界や広告業界は、どのような戦略をとってきたのか。また、これからどのような戦略が有効であるか。『アバター』『スター・ウォーズ』『ダークナイト』『シムピープル』『メタルギアソリッド』などからディズニー帝国まで、数々の作品を例に“物語"の力に迫る。
となっています。

日本では早くから、漫画やアニメなどは、ゲームやおもちゃ等との複合的なミクスドメディア戦略が普通になっていました。ところがネットの時代になり、ユーザーが参加することによってストーリーが変わったり、主人公が実際にソーシャルメディアに登場することで、フィクションとノンフィクションが出入りするような“のめりこみ”を作ってたり、ちょっとレベルが違うことになっているようです。
 考えてみれば『24』が流行していた時に、大人までもがケータイの着信音をCTUの電話の呼び出し音にしていたり、スターウォーズのTシャツを着ていたりするのは、たぶん近年になってからのこと。 のめりこませることが必要なのは、それぞれのメディアの影響力が落ちているし、現実問題としてそれぞれの接触時間が分散化しているから、接点を増やさなきゃ忘れられてしまうという理由もあるでしょう。収益を増大させようとすれば“エンターテイメントソフト”を楽しんでもらう以外に、キャラクター化などによって生活のグッズにまで入り込もうとするのは当然のこと。でもそれは、“のめり込みやすい人”ばかりをターゲットにしていて、とても危険なこと。もうたぶん、限界に近づいているのではという気がします。 少なくともディズニーリゾートは、その空間の中で、のめり込ませている。日常の場を、ほとんど浸食しないエンターテイメントだから、ハレの場で、観光という概念に近くて、古くて新しい方法論であるのではないかと思います。







2013年4月16日火曜日

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」への巡礼

様々なメディアで報道されていましたが、代官山の蔦屋書店には先週金曜日の深夜、午前0時の販売開始に150人以上もの人が並んだという。
私は金曜日、9時過ぎぐらいに会社を出て、渋谷西武のあたりを通りがかった時、なんだかわからない行列を見た。あれもやはりTUTAYAなのか、あるいは別の書店なのか、村上春樹新刊「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の販売開始待ちの人たちだったんでしょうか。



「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」はかなり読んでみたいけど、発売日に行列するどころか、一週間以内には入手しようとか、そんなことはまったく思わない。だいたい村上春樹ファンとは、言いがたい。なんたって「1Q84」しか、読んでないんだから(笑)
だけど「1Q84」を読んで、完ぺきにやられた。実際に起こった事象と交錯しながら、新しい物語に引きずり込まれる感覚は、他の作家では、まず味わえない。人物の描き方も、形容しているわけじゃないのに、行為の描き方で人格が鮮明に見えて来るようなスゴさを感じた。
それでも、どうして早々に入手しようと思わないんだろう? だって小説じゃないけど、他に読んでる本があるし、それを放り出してまで読もうとは思わない。だいたい私はどんなに好きでファンでも、瞬間的に燃え上がったりしないよなぁ。
とまあ、私のことはともかく。

今まで行列までして、買ってくれる理由参加することの価値なんていう、当然も当然の記事を書いてますけど、特に音楽ではパッケージを所有するということが、あまり価値を持たれなくなって来て、参加することが付加価値になっています。じゃあ小説の世界では、どうなのか。電子書籍で発売開始だったら、参加するという付加価値がそんなになさそうですよね。

もちろんハルキストなら、すぐ読みたい。徹夜してでも、読んでしまいたいと思う人だって多いでしょう。私も「1Q84」読んでたときは、本当に困りました。
でもそこまで熱心な人たちだって、夜中の12時に並ぶでしょうか? ハイテク製品ならギークな人たちが先を競うというのは、ごく普通でしょう。でも文学好きの人たちにも、そうした傾向があるんでしょうか。



もしかして、と思って、Amazonのレビューをチェックしました。そうしたら、どうしたことか4月12日の日付で10人以上が書かれています。12日から13日に日付が変わるところで発売なので最速で4月13日付のはずですが… Amazonの日付はどうなっているんでしょう。以前は発売前にレビューを書いている人も見かけましたが、どなたも読んだ上で書かれているようです。ただ、当然のようにAmazonからの購入ではない。コメントを拝見すると、13日の朝までに55人がレビューをアップしていたようです。
ざっと見て行くと、評価が面白い。☆が1つか、5つか、みたいに極端に評価が割れています。先を競うようにレビューを書いている人がこれだけ多いということは、人より先に発信したいネタとしての村上春樹本という視点で考えてみてはどうでしょうか。

今現在もAmazonへのレビュー数は伸び続けていますが、たぶん13日中に書かれたレビューなら、かなりの人たちに読まれたはずです。なによりのポイントは、そこかもしれません。Amazonを見ると、品切れで次の入荷は4月20日予定。書かれたばかりのレビューだって、まだまだ読んでもらえる確率は高いです。
そんな数十人がレビューを書いたからって大したことないじゃん、と思われるかもしれません。たぶん24時間以内にレビューを書こうとした人は、その数倍、あるいは数十倍いるかもしれません。いずれにせよ、少なくともAmazon内ではダントツの数字ではないでしょうか。




Amazon.co.jpへのリンク


体験できる価値、参加できる価値はもちろんですが、さらに発信できて認知してもらえる価値。発信しても読んでもらえなければ、ほとんど価値はありません。ま、まあこのブログが、そうかもしれませんが(笑)
こういうことは今の文学の世界だと、芥川賞や直木賞でも、ちょっと難しい。本屋大賞は、近いかもしれません。でも村上春樹本なら、確実だと思うんです。とにかく売れることが確実なわけですし。


「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は、発売まで完全に情報を遮断するハングリーマーケティングだと大学の先生がテレビの取材でおっしゃっていましたが、それはもちろん、そうでしょう。
行列までして、買ってくれる理由で書いたのは、大ブランド以外のこと。“私だけが知ってるというのが初期のファン作りには必要だし、そのあとも「私たちだけが知ってるコアな情報の共有」でつながることが必須なんだと思います。” と書きました。
村上春樹さんは大ブランド。誰もが知ってる。でも発売が深夜で、そこから24時間以内ぐらいなら「私だけが読んで、私だけがレビューした」という時間軸での価値がある。そこに至る価値を、作家と出版社が生みだしたと言えるんじゃないでしょうか。



普遍的な価値を持つのが文学や芸術なのに、そんな仕掛けられた売り方でいいのかという声もありそうです。発売時に話題にならなければ、売ること自体がどんどん難しくなっている時代だと、でも私は思うんです。熱心なファンが図書館で借りてくれても、作者としてはうれしいでしょうけど、あまり収入にはならない。
いや、図書館の中ですら、どうでしょう。どんなジャンルのコンテンツだってそうですけど、仮に毎年の出版点数が減ったところで、古典から海外作品から何から、膨大な作品群と競争して選ばれなきゃいけない。

音楽CDでは、かなり以前から、過去の名盤を同じ音源のままパッケージを簡単にした廉価版で、ちょっとしたキャンペーンにする手法が定着しているようです。
新作は、そんなわけにはいかないので、発売時に最大瞬間風速になるようにしなければ、売ることは難しいのではないでしょうか。




最近、あるクライアントから、こんな話がありました。メルマガ会員がこれだけ獲得できたのだから、極端な話、メルマガだけでプロモーションしてもいいのではと。
いやいや違います。メルマガ会員だけなら閉じた世界。世の中で、話題になっているという状況がなければ、ファンだって、だんだん買わなくなりますと私は答えたんですが。世の中とは世間一般とかテレビに取り上げられるということではなくても、Amazonでレビューがいっぱい書かれることだって話題なんです。
浮気しないファンなんていませんし、ファンだって忘れちゃうこともある。記憶や想いを強化してくれるのは、周囲の状況。狭い世界でしか知られてないけど、ファンであること自体がアイデンティティになるような強力なブランドならいいでしょうけどね。
たぶん基準は、画像を待ち受けにとか、Twitterの背景画面にしてもらえるとか、そんなレベル。


え〜っと、こんなネタがあります。
Hey!Say!JUMPパーティー応募目当てでバーモントカレーがバカ売れ / 余ったカレーをヤフオクで捨て値で出品するユーザーも」というロケットニュースの記事。

“バーモントカレーも今年で発売50周年。それを記念して、商品のバーコードを集めて応募すると、抽選でジャニーズの『Hey!Say!JUMP』のプレミアムランチパーティー招待券がもらえる企画を行ったところカレーがバカ売れ! バーコード目当てで買ったユーザーがヤフオクで残ったカレーを激安価格で出品するという事態になっている”そうです。

まさにファンであることがアイデンティティになるような強力なブランドですし、「私だけが経験して、私だけが発信した」みたいなことも備えているわけですね。Hey!Say!JUMPに会えるだけじゃなく、ランチパーティーなんだから、その場にいるファン同士で連帯できる。後々も、参加できなかった人たちとも共有できる。
もうひとつ。これをしている人たちは、お金の使い方を完全に自己裁量でやれる立場だということでしょう。うらやましいです(笑)




巡礼という言葉には、観光という意味合いも強く含まれているといいます。観光になるには、まず希少性がないとダメですよね。





2013年4月10日水曜日

「OPEN」とストライサンド効果

このところウェブサイトなどで情報として出すか出さないかという判断に遭遇することが多く、世の中、出せないことが多いんだなぁと、改めて実感しています。どんなことが出せないのか具体的に書けと催促されると、私も「そんなの、書けません」と言うしかないんですが(笑)
画像:open
ある団体のミーティングで、お亡くなりになった方の情報を出すか出さないか。出すと引用されて、ネガティブにも書かれるから好ましくないとおっしゃる方がいらっしゃって。私は「オフィシャルサイトに、キチンとした内容が書いてないと、勝手な風説が広まりやすいですよ。オフィシャルサイトに、圧倒的な情報量があった方がプラスになるはずです」と発言しました。


あるクライアントの商品に関して、影響力のあるネットメディアが本質的ではない使い方を書いた。それが多数、引用されてツイートされているのを発見して、クライアントにどうしますかと判断をお聞きした。公式に発信することではないから、こちらからは積極的にアクションを起さないという返答。炎上するような内容ではなく、ブランド価値を損ねる可能性がある。というレベルなので、そういう判断もありでしょう。
もし、いい方向に向くようにしようと思えば、せいぜい半日ぐらい遅れまでぐらいで対応する必要があるので、やってくれと言われたら大変でした(笑)


画像:バースト表紙
『バースト!  人間行動を支配するパターン』という本に、面白い話が書いてあります。

アメリカに住むハサンというアーティストが、海外から帰国。デトロイトの国際空港に降り立つと、移民帰化局に拘束された。アルカイダ訓練キャンプの出身者ではないかと疑われていて、海外で誰に会ってきたのかとか行動の詳細や、借りている倉庫の中身などを聞かれた。アルカイダではないことは判明したのだけれど、その後もFBIに呼び出され、尋問を受けたという。

ハサンは頻繁に海外に出かけるアーティストなので、またこういうことがあって拉致されても困ると訴えると、FBIのエージェントは、困った事態が起こったら連絡してくれと言って、名刺をくれたそうです。
それからというもの、ハサンは逐一ネット上に、どこへ行ったか、何をしたかを写真で公開するようになった。私に怪しい行動はありませんと。すべて開けっぴろげにすれば、疑いようがないでしょうという、アーティストらしい発想。
ただ本人は写っていないので、フェイクかもしれないですけどね(笑) 



 思い出すのは、西原理恵子&高須克弥の熱愛宣言。そもそも、いろんなところにふたりで出没し、仲がいいと知られていたということだけど、「デキている」と嗅ぎ付けた女性週刊誌が駆けつけた。経緯はわからないですけど、取材するとサイバラさんと高須院長がふたりで登場。隠すどころか、赤裸々に交際の様子を語り、スクープどころか熱愛ぶりを見せつけた内容になったいう。
その後は、マスメディアでもネットでも盛り上がることなく沈静化。そもそも、このふたりの交際に興味ある人がいるのかという疑問もありますが。いや、だからこそ詳細に語ってしまえば、誰もそれ以上知りたくない。むしろ、もう聞きたくないと思ってしまうのでしょうか(笑) 





4月8日のGigazineに『Wikipediaに記事内容を削除するよう圧力をかけたら逆に注目を集める結果に』という記事が出ていました。
http://gigazine.net/news/20130408-wikipedia-article-french-station-hertzienne-militaire/

フランスの国内情報中央局(DCRI)が内容を削除するよう、運営しているWikimedia財団に圧力をかけていたことが明らかになりました。理由は「国防上の秘密が掲載されている」というものでしたが、Wikimedia財団では記事内容は公になった情報を集めたものだとして削除を拒否。記事をめぐる顛末によって、皮肉なことに注目を高める結果となりました。
というものです。


ある情報を隠蔽したり除去しようとしたりする努力が、逆にその情報を広い範囲に拡散させてしまうという意図せざる結果を生み出す」というのをストライサンド効果と呼ぶそうですよ。




大上段過ぎる感じはしますが、ネットを介して生まれつつある新しい“パブリック”──それはソーシャルメディア革命と3.11を経て見えてきた、大公開時代の新しいフロンティアだ!
と言ってる『PUBLIC』という本も、オススメです。サブタイトルにある「開かれたネットの価値を最大化せよ」という意味では、オープンにしないと最大化できないですから。








2013年4月2日火曜日

ポップアップ化する街

大騒動だった東急東横線と副都心線の乗り入れ。従来の東横線渋谷駅舎の跡地は、SHIBUYA ekiatoという名称のイベントスペースになり、一般に貸し出されるとアナウンスされていました。写真は1月に撮った東横線渋谷駅です。

画像:東急東横線渋谷駅


利用第一号はユニクロ。TシャツのUTが期間限定ショップ「UT POP-UP! TYO(ユーティーポップアップ トーキョー)」という名称で、3月28日から4月7日までオープンしているそうです。
いろんなところで記事になっていましたが、大々的にプロモーションしている感じはありません。検索してみても、取り上げているメディアも少数です。
UTの他の店舗に選考して、Star WarsとのコラボTシャツなど100種類のアイテムを販売するということですが、マニアックなファン以外、わざわざやって来るような仕掛けは特になさそうなのですが、ここは実質的に駅ナカ。地の利は、バツグンです。

画像:UT POP-UP! TYO


UT好きという人はいるでしょうけど、その理由はおもしろTシャツがいいというぐらいで、わざわざ遠くからUT POP-UP! TYOを目指して買いに来るというよりも、渋谷にある種の観光に来た記念やおみやげとしていいかな、ぐらいの理由で立ち寄る感じではないでしょうか。話題になった東横線渋谷駅のさよならと、UTの珍しいお店という相乗効果。長期間たらたらとやっているより、10日間ほどでクローズするポップアップストアの方が効果的なのかもしれません。

閉店するとなるとお客さんが殺到するのは、昔からよくある現象。今も続く代官山のOUTLETなんて、それ以前は別の店名でやっていて、閉店セールになったら平日でもどんどん客が入るようになった。何ヵ月も閉店セールをしてるなと思ったら、店名がOUTLETに変わったんですよね。



あ、ポップアップストアって、そんなに知られていないかもしれないですが、渋谷や表参道エリアだと、やたらと目につきます。ウィキペディアによると、「空き店舗などに突然出店し(ポップアップ)、一定期間で突然消えてしまう期間限定の仮店舗のこと。イギリス国内では人気の宣伝手法である」とのことです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ポップアップ・ストア


ここ半年ぐらいで身近かなところでは、アメリカンラグシーやジャーナルスタンダードが数ヶ月間やっていました。これらはたぶん、空き店舗があって、安く持ちかけられたのだという気がします。以前からある店舗の、すぐ近くに小さなポップアップストアを開いていたのですから。神南地区に頻繁に足を運んでいる人なら、なんだろうと入ってくれる確率は高いかもしれないです。スペシャルな感じはしますし、かといって知っているショップの名称だから、価格帯等で馴染みがない敷居の高さを感じる心配もなさそうです。

画像:JOURNAL STANDARD POP-UP STORE



























ただ宣伝効果、ということではどうなんでしょうか。なんとも、想像できません。たぶん狙いはテイストの違うラインを、ポップアップという目立つ形で出す。市場性があるか、試してみるということじゃないかという気がします。ビームスは以前からテイストの違うセレクトをサブの店名を付け、異なるイメージで、エリア旗艦店の周囲に配していました。公園通りなどに出ている大型店とは異なる戦略だと思います。簡単に言えば、ちょっとだけわざわざ奥に入らせることで、こだわり感を感じさせるということではないでしょうか。


画像:ナイキエアフォース1_popup

宣伝効果では、上手だと思ったのが、昨年末にファイヤー通りにナイキがエアフォース1に特化したポップアップストア。12月1日から24日のクリスマスイブまでという細かな期間限定で、パブリシティも多く行なっていたようです。写真は、ツイートしていたものですが左から11/27、11/30、12/28です。主体はパブリシティなんだろうと思いますが、道行く人にも強力にアピール。

ショップを期間限定で開くことは少ないかもしれませんが、考えてみればナイキは、◯◯店限定色等、リミテッド手法を昔から多用しています。それが、ショップ自体に応用されたからといって、特別なことではないかもしれません。
世界的に有名なブランドが、誰でも着てるから履いてるから、どこでも売ってるからというコモディティ化から逃げようとすれば、当然考えられることです。




もちろん、スーパーやデパ地下などでも、期間限定出店などの手法は、従来から多く取り入れられています。たいがいの人は、たぶん限定というコトバに弱い。ただ、デパ地下だって、そうそうリニューアルできるわけではないから、特別な存在ではなくなっている気がします。たぶん、わくわく感より、惰性で行ってしまう、ぐらいの存在なのかも。


もう珍しいものだってそうそうなく、情報は溢れかえっているけれども、対象としたい人になかなかメッセージが届かない。届いても、他の溢れる情報に押し流されて、憶えておいてもらえない。
そういう時に、ショップ自体が出現して、あっという間に消えてしまいますよ。どうする? この次はないですよと迫るのは有効かもしれません。
わくわく感を作るのは難しいから、今ここでしか買えないという希少性を作る。
参加することの価値 で書いた『お持ち帰りCD』じゃないけど、その場に参加するという体験こそが付加価値なのかもしれません。



虎屋の羊羹、みたいな老舗の定番以外は、みんなポップアップする必要があるのかも。日常的に使う定番商品なら、ネットでまとめ買いした方が安いし。
ポップアップなら、本業や本店はそのままに、トライアンドエラーが出来ますものね。




そうすると、ポップアップする売り方にふさわしい宣伝やPRの方法って、どんなものでしょうか。たぶん巡業で来るサーカスとか海外アーティストの来日公演とか、そういう興行系の宣伝のやり方が近いのかも。