2014年11月11日火曜日

YouTube周辺の著作権をめぐる、やっかいで危険な徴候


うちの会社のYouTubeチャンネルのクリエーターツール(平たくいえば管理画面)の著作権情報に、[第三者のコンテンツと一致しました]という表示が出ていました。
またか。これで二度目です。

同じ会社かなと思ったら、違う会社が著作権侵害の申し立てをしたようです。調べてみると、以前と同じインディーズなどのアーティストの楽曲をiTunesなどで世界での配信を請け負う会社でした。違う会社だけど、以前と同業種。同じ仕組みを使っているんじゃないかというぐらいで…


知らないうちに、iTunesへのリンクが貼られていた


YouTubeから、著作権侵害の申し立てがあったというメールが来たわけではありません。あくまでも管理ページに[第三者のコンテンツと一致しました]という表示が出ていただけです。そしてYouTube動画には、音楽としてiTunesへのリンクが貼られていました。





上の画像の、一番下のところですね。
どうして、こんなことが起こるのでしょう。順を追ってご説明します。



GarageBandで作った曲はオリジナル、ではない?


自社のYouTube動画の音楽は、Macに最初から入っているGarageBandというDTMソフトで作ったもの。数あるDTMソフトの中でも、飛び抜けて簡単です。


著作権侵害の申し立てがあったBGMを作った者に聞いてみると、やはりGarageBandだけで曲を作っていて、最初から入っているサウンドライブラリのMIXプラス多少の打ち込みだということでした。
DTMをご存じない方にはピンと来ないかもしれませんが、ドラムパターンやギターのフレーズが数多く入っていて、組み合わせるだけでも、それなりの曲が出来てしまうのです。
でもそれで著作権侵害ということは、Appleが他人が著作権を持っているものを勝手に使っていることになりますよね。そんなバカな…

自社のYouTube動画は、主に実験的な意味合いで作っていますので、完全に打ち込んで曲を作るということはありません。YouTubeでは広告を掲載することで収益化もできるのですが、それもしていません。
EXIT YouTubeチャンネル


今回申し立てのあったものは、すぐに動画ごと削除してしまいました。他には曲だけ削除するという方法もあります。


著作権侵害の申し立てができるのは、Content ID利用資格を持っている人だけ


Googleによると、YouTube にアップロードされた動画は、
Content ID ユーザーが提出したファイルのデータベースに照合され、スキャンされます。システムによって動画とデータベース内のファイルとの間の一致が検出されると、 コンテンツ所有者はどのような対処をするか決定できるようになります。この際、該当の動画に対しては Content ID に関する申し立てが行われます。
ということです。たぶん自動的にスキャンされ、アルゴリズムによって登録されている楽曲と一致していると判定されれば、Content ID利用資格者に通知が行くのでしょう。

Content IDの利用資格は、
一定の基準を満たすコンテンツ所有者のみに Content ID の利用資格を付与しています。コンテンツ所有者が承認を受けるには、YouTube ユーザー コミュニティによって頻繁にアップロードされるような大量コンテンツの独占的権利所有者である必要があります。
とのことですから、レコード会社や版権の管理会社などが主だと考えられます。もちろん、この基準ならインディーズなどアーティストの楽曲の配信を請け負う会社も該当して当然です。


権利所有者は、著作権侵害された動画に対して何ができるのか


Googleによると、この4つになっています。

・Content ID と一致する音声をミュートする
・閲覧できないよう動画全体をブロックする
・動画に広告が表示されるようにして収益化する
・その動画の再生に関する統計情報を追跡する

いままでうちに対してあったのは、3番目の広告が表示されるというオプションですね。広告の表示は、動画の前にCMを入れたり、下部にバナーが入っているのを思い浮かべますが、iTunesへのリンクが貼られていただけです。iTunesで楽曲が売れれば、侵害の申し立てをした会社に売上が入るということなのでしょう。
どんと広告が入るわけじゃないし、iTunesへのリンクがあるぐらいいいじゃないのとも思いますが、もしかしたら侵害の申し立てをした会社は、それが狙いなのかもしれません。
自社のことなら、どうってことないですが、仕事として動画を受注しているので、どういう流れなのか把握しておく必要があります。

安く簡単にBGMを作るなら、GarageBandが手っ取り早いですが、作ったクライアントの動画に侵害の申し立てをされたら、会社によっては大騒ぎになるかもしれません。


仮に著作権を主張している仕組みが、こういうことだったら


GarageBandに入っているフレーズなどは、パブリックドメインのものかAppleが著作権を持っているのだと思います。
バブリックドメインとは、知的創作物について、知的財産権が発生していない状態又は消滅した状態のこと。たとえばクラシック音楽にも膨大なパブリックドメイン楽曲が存在します。作曲者の死後50年が経過し、レコード化などをされてから50年を経過すると、演奏者やレコード会社などの権利も切れ、その音源は自由に使うことができます。
ポピュラーミュージックに関しても、同じはずです。

仮にGarageBandに入っているパブリックドメインのものフレーズを少しだけ変え、録音し、mp3化などして販売する。著作者は自分だと主張して、Content IDに登録すればどうでしょう。たぶんGoogleのContent IDには、既存の著作物やパブリックドメインもののデータは入っていないのではないでしょうか。
そのままのフレーズでも行けてしまいそうですね。


異議申し立てもできますが、誰が証明できるでしょう


[第三者のコンテンツと一致しました]という表示とともに、異議申し立てへのリンクもあります。


[異議申し立てを提出]をクリックすると、こんな画面に遷移します。


CDを持っているとか、販売していないというのは、即侵害していますとなって終了でしょう。でも自分のオリジナルコンテンツだというのを、どうやって証明するのでしょう。
私もGarageBandに入っているものを使ったのだから、「正当な権利所有者からこのコンテンツを使用するライセンスまたは書面による許可を得ている」と主張できるとも思ったのですが、Appleの利用許諾を再確認するだけ無駄だなと、異議申し立てするのをやめてしまいました。
きっと、公開することで被る不利益には関与しない。紛争が起こった場合は当事者同士でやれというお決まりのフレーズを発見して、ため息をつくことでしょう。

それにGarageBandのサウンドライブラリに入っているフレーズ的なものは、年々、バージョンが進むにつれ数が減っています。想像でしかありませんが、パブリックドメインの音源と、ほぼ似たようなものが著作物だと、どんどん主張されているのではないでしょうか。
クラシックのように世界中で知られているものなら、誰が聴いてもパブリックドメインだと主張することはできますが、ギターのリフなら証明するのは不可能でしょう。
もう今回は私も、インディーズで音楽発売しようかなと思いました(笑)


ここからは、さらにディープな内容です。


YouTubeに巣食う著作権詐欺団体があるという指摘


もう2年近く前のブログですが、元ロックバンドをやっていた方がこんなことを書かれています。

著作権詐欺団体とは、著作権違反をしていないYouTube動画に、さも自分が著作権を所有しているように偽って、発生する広告費を横取りする集団(個人)です。
以前こちらで「音楽みかじめ料詐欺集団リスト」ということで掲載したら、数人の方から同様のコメントが寄せられました。

3D CG Animation

YouTubeの仕組みからすれば、あってもおかしくない。私は読んで、そう思っていました。ユーチューバーの中には何億も稼ぐ人がいるのですから、無数の他人の動画を自分の広告媒体に出来てしまえばおいしいと考える人は、いくらだっているでしょう。


ところがそんなどころじゃない、仕組みを悪用した身の毛もよだつ事態も発生しています。


テロリストが著作権違反を主張して、YouTuberの個人情報を取得!?


最近掲載された記事です。
Gigazin

ドイツのニュースサイトFazによると、イスラム教を批判するチャンネル「Al-Hayat TV」が、「FirstCrist, Copyright」という団体からデジタルミレニアム著作権法違反の申し立てを受けてチャンネルが停止となったため、オンライン上に復帰するYouTubeの手続きに従って個人情報を申告。

「あなたの個人情報をありがとう。自宅に警察の保護をつけた方が良いですよ」という脅迫文が書かれた手紙が届いたとのこと。著作権違反の侵害申告の手続きでは、著作権保持者側へメールアドレスなどの情報がわたってしまうため、入手した情報からAl-Hayat TVの個人情報を特定したとみられています。 

唖然としませんか?
この文章を読むと、 Content IDが悪用された。つまりテロリスト集団が(記事の中ではアルカイダ系となっています)、Content ID利用資格者だということなんでしょうね。
しかも異議申し立てをすると、個人情報が渡るなんて!? そんなこと、異議申し立てのどこにも書いてないですから。本当にそんな仕組みだったとしたら、穴だらけ。異議申し立てすることが、とんでもなくリスキーになります。



安全に曲を使うには


先日私は猫転送装置というものを知って、やってみよう。でもこれは検証動画じゃないと、つまらないよなぁと思って、土曜の昼下がりに撮影してYouTube動画を作ってみました。もちろんもちろん個人的に、遊びです。
編集しているうちに、音楽欲しいなと思って最後の方にだけ入れてみました。



思い浮かんだのは、「ねこふんじゃった」でした(笑)
ベタですけど、これなら絶対に大丈夫だと考えました。「ねこふんじゃった」は諸説ありますけど作曲者不明。しかもどこの演奏とも似ていなければいいのだからと、メロディを手打ちして調子っパズレのアレンジにしてみました。

冗談みたいですけど、どこからも著作権侵害の申し立てをされないためには、こういう方法ならありかもしれません。

仕事ではメロディは入れずに、リズムだけのBGMを作るとか。どれだけ費用をかけてオリジナルを作っても、YouTubeの仕組みが変わらない限り、侵害の申し立ては続くでしょう。そう考えておいた方が、無難です。


もしかしたらYouTube動画を活用しようとするなら、詐欺的な著作権侵害の申し立てぐらい、どうってことないとドッシリ構えてくれる担当者やクライアントであることこそ、求められる時代なのかもしれないです。


いまのところ著作権まわりで、人が介在せず仕組みで解決しようとするGoogle式民主主義は、うまく機能していないようです。



過去には、こんな記事も書いています。ファレル・ウィリアムス 『happy』を使ったダンスカバー動画がふたつ、申し立てをされた事例も取り上げています。どうもファレルサイドからでは、なさそうです。
YouTubeと音楽プロモーションのトレンドと著作権 2014年6月3日



追記:2014/12/16
12月15日、INTERNET Watchに『YouTube、動画に使いたい楽曲の利用可否を確認できる機能を提供』という記事が公開されています。YouTubeがアップロードする前に確認できる機能を提供を開始したという内容。
ただ、どうもContent ID登録者側の問題は、解決されていないようですね。





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