2014年1月16日木曜日

ストーカーのような広告は、嫌われる? 嫌われない?

先日あるクライアントのところで、バナー広告について話していました。
使い方は、ネット上でストーカーのようについてくる、あのバナーのことです。

なぜどこのサイトに行ってもついてくるかというと、ある商品のことをチェックするために企業のウェブサイトに行ったとしましょう。その情報(クッキー)を元に、アドネットワークを使い、次々にサイズ違いで同じ内容(違う場合もありますが)のバナー広告を表示するのです。

多くのサイトがアドネットワークに加盟しているからこそ、ストーカーのように追いかけることが可能です。この追いかけることを、リターゲティングといいます。
追跡するのが、いいのかどうか。ウェブの広告業界では花形で、ユーザーの行動に応じて興味の対象を絞り込んで広告を打てるため、通常のバナー広告よりもクリック率やコンバージョン率が高く、効果的だと言われています。

こちらのクライアントでも、高い効果をあげているそうです。
私が説明したのは、つきまとわれることで“説得”される人と、嫌う人がいる。ネット業界ではとにかく成果の上がったところだけが注目されるけれども、それだけでいいのかどうか。嫌った人たちに、どう影響するかということも考えないと。








ネット以外の広告では、たとえばテレビCMでも繰り返し流されますし、キャンペーンでは屋外の看板から電車の中吊りやステッカーに至るまで、なんども同じビジュアルとメッセージが繰り返し、目に飛び込んできます。
でも、そのこと自体が嫌われるという話は、あまり聞いた記憶がありません。「私に」向けて発信されているわけではないし、嫌なら見なければいいということでしょうか。

ネット広告でもリターゲティングは、たぶん「私に」ついてきている、ロックオンされてると気がついた瞬間に、うっとうしいと感じてしまうのでしょうか。
もちろん期間限定を知らせるバナーがついて来たから、忘れず買うことが出来て良かった。みたいに、ひとりの人の中でもケースバイケースで、いい場合もあれば、嫌な時もあって当然です。でも簡単に考えるために、説得される人と嫌う人にわけて考えてみます。


リターゲティングは、その商品を知っていたり、購入しようと検討している人、迷ってる人にアプローチする手段として、優れていると言われています。検討してはいるんだけれど、しつこくされるのは好き・嫌いにわかれるわけですね。




恋愛で、しつこくされるのを好む人もいる?


女の人の中には、「しつこくされたから、つきあった」「何年もアプローチされたから結婚した」とおっしゃる方が、少なからずいらっしゃいますよね。個別のケースは別にして、この人たちは、しつこくされることが“好き”なんでしょうか。あるかもしれませんが(笑) 

人間対人間だから誠意が伝わるとか、信じられたということがあっておかしくないです。
でも、仕組みでアプローチされたらどうでしょう。毎日、自動音声の電話がかかってくる。セットされた愛のメッセージがメールで送られてくる。リターゲティングって、基本的には、そういうことだと思うんです。


ここはナンパスポットだ、と言われる場所があります。渋谷だともうあちこちがスポットだと言われていて、スポットではなく広いエリアになっているようですが(笑)
とにかくナンパスポットにいれば、若い女の子なら声を、それなりにかけられる。いつ渋谷に来ても、誘われる。という現象があるのでしょう。
じゃあ声をかけられるのを嫌う人たちは、どうするのか。足早にその場所を通過する。声をかけられても無視する、ということですよね。どうせ、誰にでも声かけてるんでしょと。
ナンパスポットでナンパされるのは、だんだんナンパされに来ている人たちだけ、ということになります。
もちろん渋谷や新宿では、初めて街にやってくる人たちが大勢いますので、嫌う人ばかりになるという懸念はありませんが。

ネット上では嫌う人ばかりになってしまう、という懸念もあるわけです。それはひとえに、クリックしたあとの満足度にかかっているんでしょう。



企業のマーケティングより繊細な、選挙の「アップリフトモデリング」


前述のように、喜ぶ人だけを数値化して考える傾向が特にネット業界では強いと思いますが、嫌がる人がどう影響を及ぼしているかも考えないと、短期的には良くても、中期的には危険、長期的には最悪。なんてことが、ありそうです。
嫌がる人の調査データは、私がちょっと探したぐらいでは見つかりませんでした。一般的には利益の数字とは関係ないし、調査しないでしょうしね。言及している書籍なども見たことがありません。

アプローチする対象への影響を予測して、手段を選択することは、マーケティングの世界では一般的です。もっとも多いのではと思われる手法は、テストマーケティングというもの。特に価格などでは、エリアを限定して実際に販売してみるという方法が一般的です。いわば小さなシミュレーション。ただこれも、誰がとか、どんな人がプラスの反応だったかというところが不明です。


『ヤバい予測学(原題:PREDICTIVE ANALYTICS)』という予測分析の本に、オバマ大統領陣営の行なった選挙運動についてのコラムがあるのですが、誰に働きかけるかについて、こんな文章があります。
抜粋します。
最悪なのは、有権者への働きかけが逆効果になることで、対立候補に投票しようと「心変わり」をしかねない。
ビジネスの世界では、マーケティング活動がそのような反動を招いても、難なく切り抜けられる場合も少なくない。働きかけをするまでもない『忠実な顧客』や、働きかけが確実に逆効果を招く「干渉厳禁」の顧客にうっかり接触しても、ほかのところで十分な利益を確保できればかまわない。マーケティング活動が全体として利益をもたらすかぎり、そのような細かな穴を埋めるためにより洗練された手法を導入することは、投資コストが高過ぎると見なされる

誰に対して働きかけをするべきか。オバマ陣営には、データサイエンティストが50名以上集められ、マイクロターゲティングを行なったそうです。
オバマ大統領の行なった大統領選での選挙活動は、大衆から広く寄付を集めるためのA/Bテストなども巧妙だったと言われていますが、あらゆる面でデータ分析を駆使したということなんでしょうね。


ネットの影響力を過小評価していないだろうか


オバマ大統領のことはさておき、私はここが気になります。
ビジネスの世界では、マーケティング活動がそのような反動を招いても、難なく切り抜けられる場合も少なくない
そうなんでしょうか。
最近、こんなことがありました。ある大手外食チェーンが、九州の一部地域で値上げを行いました。値上げした場合の影響を調べるためのテストマーケティングだと思いますが、それ自体はごくごく一般的な手法です。ところが大手掲示板などでネガティブに書かれたらしく、複数のまとめサイトでも取り上げられ、ツイッターなどでもどんどん拡散さる事態になっていました
テレビCMもバンバン打たれていますし、このことだけなら、経営的に大きな問題にはならないと思いますが、ネガティブな評価が重なると、まるでオセロゲームの角を押さえた時のように、白から黒へとパラパラと何枚ものコマがひっくり返る。今、そんなことが起こっているように思えます。

多くのユーザーがネットと親和性の高い企業ほど、このようなリスクが高いという気がします。


ターゲティングという言葉とは裏腹に、ターゲットを知らない


たとえば今日、大手家電量販店の店頭で洗濯乾燥機を買った人がいたとします。高い買いものです。帰宅してから、オプションの替えフィルターの値段を調べようと、その大手家電量販店のサイトに行きました。目的の情報はなく、メーカーのサイトに行きました。ところがそれからというもの、どこのサイトに行っても、大手家電量販店の特売を知らせるバナーが出てきます。たぶん、明日も明後日も出てきます。来週も出てくるかもしれません。



あまりの寒さに、会社帰りに評判のダウンジャケットを買いました。あちこちまだセールをやっていて安いものはいっぱいあるけれども、保温性がぜんぜん違うし、スーツの上に着ても大丈夫だというのでそれにしました。店員さんが、熱心に顧客登録をしてくださいというので、個人情報を記入し、会員カードをもらいました。
そのまま着て満員電車に揺られて帰宅したところ、びっくり。ひっかき傷のようなものが出来ています。高かったのに、ショックです。
翌日、会社帰りにお店に行ってみました。なにかいい方法はないか、聞いてみようと。さすがにスーツの上にダウンは暑かったので、今日は着ていません。
昨日接客してくれた、あの店員さんです。ところが「何かお探しでしょうか」と言われてしまいました。こちらのことは、憶えられていない? え〜、昨日の今日なのに!?
と、もしそんなことがあったら、なんかやるせないですよね。現実にあったら、周囲に悪口をまき散らすかもしれません。

現実のお店ではなかなか起こらないと思いますが、ネットでは日常茶飯事です。



ストーカー的な手法が、嫌われる、嫌われない以前の問題として、相手がどんな人なのか。何を望まれているのか。
そろそろ知る手だてを講じた方が、いい段階かもしれません。






ヤバい予測学 ― 「何を買うか」から「いつ死ぬか」まであなたの行動はすべて読まれている


選挙のことだけじゃなくて、銀行から小売業、病院まで多くの事例が書いてあります。Google検索も、つまるところは予測分析でしょう。



バナー:ウェブ、グラフィック、そしてソーシャルなつながりをデザインする制作会社です


0 件のコメント: