組織をもたず立候補された小池百合子さん。見事に新都知事になられましたが、私がソーシャルメディアやネットから眺めていると、圧倒的に小池氏有利に見えていました。
投票日に即日開票され、当確が出た後、テレビなどでは石原親子のオウンゴールや保守分裂、野党統一候補の調整の不備など、さまざまな解説がなされていますが、私は違う視点で見ていました。もちろんネット上で有利に思えても、それが投票行動にそのまま結びつくわけではありません。
すでにSNSからの視点や分析を元に、公表されているふたつの記事をご紹介しながら書いてみます。
“SNSを通じた「ファンの可視化」が報道にも影響”と徳力基彦さん
徳力さんはアドタイでの連載8月2日の「アンバサダー視点のススメ」で、こう書かれています。
特に個人的に、小池陣営のSNSの活用から企業担当者の方々が参考にすべきと考えている点は、小池氏が積極的にSNSを通じて「ファンの可視化」を促していたところです。
こちらの投稿では、文中でも画像でも明確に支援者に「緑のものを一点、身につけてお集まりください」と呼びかけています。他の候補者が街頭演説の時間だけを告知していたり、自らへの支持を呼びかけたりしているのと、大きく異なるのがこの点です。
つまり、小池氏は自らをフォローしている支援者に対して話しかけるだけでなく、「緑のもの」を身に付けることで「支持者であることを可視化」することを促しているわけです。
【小池ゆりこフェス 最後の大演説会!】— 小池百合子 (@ecoyuri) 2016年7月29日
選挙戦最終日、30日(土)19:30から最後の演説会を開催します。
池袋西口に緑のものを一点身につけてお集まりください!#CreateNewTokyo_Yuri #都民が決める #小池百合子 pic.twitter.com/cWlbNW1l0U
いわば「キャンペーンカラー」を全面に押し出して、SNS上でもテレビ報道でも街頭演説などの映像には、緑の集団が必ず写る。Tシャツやスカーフ、はては野菜まで、それぞれが異なるちぐはぐな緑のアイテムだから、組織の動員ではない支持者の姿が可視化されました。
企業だとしたら緑はすでに訴求力に乏しいかもしれません。自公推薦の増田寛也さんもキーカラーは緑。でもスタッフTシャツが緑で統一され、運動員たちは皆デザインされた[増田]のボードを持ち、まるでお金のかかった企業の街頭プロモーションに見えかねないものでした。意識して見なくても、資金力/組織力に裏打ちされた印象が植え付けられます。ハチマキは赤で統一されていましたが、緑のキーカラーとは対照的に古い選挙運動を連想させます。
増田候補が古い広告の手法でアピールしたのは、なぜ?
小池候補はSNSと親和性の高いスタイルで、増田候補は生活財的なマスマーケティングだったと思います。
増田候補は、応援演説に立つ著名な議員の方々も間違えるほどの知名度の低さをカバーすべく「ますます増田!ひろげてひろや!」と連呼していましたが、一昔以上前のテレビコマーシャルのようです。すべてをプロモーションとして、広告のプロたちが統制しているのだろうなと思いましたが、それがいいのかどうか。
Twitterでは「ますます増田 ひろげてひろや」に関連したハッシュタグも作られていますが、まったく広がっていません。連呼型の訴求でアピール出来る層と、Twitterで拡散する層とは、かなり離れています。
私には与党が支持しているなら、そこに投票しようと考える人たちを狙い、それ以外の層を捨ててしまったように見えました。
自民党はソーシャルリスニングによって選挙演説の構成を変えたりするほどの、あざといぐらいにソーシャルメディア対応上手だと思っていました。ターゲットを限定したのは、計画でしょうか。
自民党ネットメディア局が、選挙活動を推進する特別チーム「Truth Team(T2)」を発足させたのは2013年。ソーシャルリスニングとともに、違法な誹謗中傷を削除するため、IT企業6社と組んだ、弁護士も入ったチームです。
自民党のウェブサイトには、「全候補者にタブレットを配布し、T2で集約した情報が毎日レポートとして配信されることになります」「We stand for Internet Democracy」 と書かれています。
今回は、どう機能したのでしょうか。
ちなみにT2発足当時の自民党広報本部長は、小池さんです。
投票日前に「若年層は小池百合子を支持?」と書いた[ブンセキノート]
7月29日、AIによるビックデータ分析でビジネスを創造するという会社のサイト[ブンセキノート]から「若年層は小池百合子を支持?ソーシャルメディア分析から見る2016年東京都知事選 」という記事が出ていました。
ソーシャルメディアから「若年層の都知事選立候補者への関心・支持」をテーマに調査した結果から書かれたそうです。詳細なレポートは問い合わせてくださいという仕組みなので、記事の根拠は見えにくいものの、興味深い内容です。
「小池百合子」「鳥越俊太郎」「増田寛也」の3名が調査対象で、ソーシャルメディアと書かれていますが、Twitterだけかもしれません。「ニュース記事件数に関する分析についてはGoogle Trendsを使用」とのことですので、かなり偏っています。
特に年齢性別をどれほどの人が明記しているか疑問ですし、ソースが偏っています。
カルチャロミクスという本によれば、この手の手法は「単語の出現頻度を時系列にし、その変化を解析することで、人々の関心の推移を特徴付ける単語を自動的に抽出できる」「社会の中でどのようにブームが形成されていくのか、その関数形が観測できる」とあります。
だとすれば、リサーチ方法としてバイアスが大きくても、いわゆる潮目が変わったのはどこなのかを知るには、有効な方法だと私は思っています。
本題に戻って、ブンセキノートから引用するとサマリーとして書かれているのは、こういうことです。
1.小池百合子氏に対する若年層の支持が徐々に増加
2.出馬当初の鳥越俊太郎氏への関心が高いが、週刊誌報道以降は下降傾向
3.増田寛也氏に対する関心は、他の候補者二人と比べてかなり低い
2と3は分析しなくて分かりそうなことですが、1はどういう要因でしょう。ニュース記事自体は、鳥越候補のものが圧倒的なのです。Twitterのツイートに関しては、こう書かれています。
ツイート数はニュース記事同様、全体的に鳥越氏に関するツイートも多いことが見受けられます。しかし週刊誌報道以降、ツイート量は減少方向にあります。
一方で小池氏に関する投稿は徐々に増えており、7/19には「#小池百合子はヤバい」というハッシュタグで大きく話題になります。その後もツイートの量は増加傾向にあり、7/25には鳥越氏を逆転。
以上のことから、鳥越氏への支持は減少、小池氏への支持が増加していると推測されます。
「#小池百合子はヤバい」は確かに拡散していましたが、ほとんどがネガティブなものだったと思います。Yahoo! リアルタイム検索で調べてみました。
Yahoo! のネガポジ判定によれば、32%がネガティブなもの。それなのに、どうして支持につながるのでしょうか。
[ブンセキノート]によれば「ポジティブ/ネガティブに関係なく、ツイート数の多さと支持の大きさは連動する傾向にあることが、弊社の過去の分析経験から分かっています」とのことです。しかし炎上マーケティングじゃあるまいし、投票行動にまで結びつくのでしょうか。なんともわかりません。
インターネット選挙運動解禁から3年たって、雑音化が進行?
私は2013年にネット選挙運動が解禁され、特に先日の参議院選挙からは、運動ステマが激しくなってきたと感じていました。正確にはステマではありませんが、立候補者の選挙演説スケジュールなどを選挙スタッフがツイートする。それを支持者がリツイートする。あるいは、どこかにライバル候補に不利な報道が出ると、それをツイートし、また支持者の間で拡散させる。
それによって、インプレッションは間違いなく増加します。でも多くの人に届いているのでしょうか?
参院選では、すでに選挙カーと同じになったと感じていました。どれだけ選挙カーで大きな音量を出しても、聞いているのはごく一部です。与党でも野党でも同じです。
ましてやSNS上であちこちで出回れば、反応するのは、党員や支持者など組織化された人たちや利害のある人だけ。新宿や渋谷の駅前なら、組織力で動員できます。でもネット上、特にSNSでは組織化された人たち以外は、ほぼ誰も見ないし読まないという状況になっているのではないでしょうか。
ハッシュタグ「#小池百合子はヤバい」が話題になったといっても、チェックしていくと、ネガティブなツイートをしているのは、政治に興味がある興味がないレベルではなく、ほとんどのツイートが政治関連。野党支持か鳥越候補支持者のようです。
「ますます増田 ひろげてひろや」に関連したハッシュタグでツイートしているのは、ほぼ自民党区議会議員のアカウントです。
これだとどれだけ数字上のインプレッションが増大したとしても、組織化された人以外には、ほぼ届きません。
コンテンツのない増田/鳥越候補、キラーコンテンツを作った小池候補
意味のある拡散をするには、コンテンツが必要です。増田候補も鳥越候補も、打ち出したのは文脈のない目次だけに思えます。鳥越さんは立候補表明直後に、まるで近江商人の「三方よし」のようなことをおっしゃっていたので、目次にすらならなかったかもしれません。
その後、週刊誌から出たのはネガティブなコンテンツ。対応を誤ったこともあり、与党支持者以外からもネガティブな拡散が起こりました。
小池候補は、どうだったでしょう。ブログやマイナーなネットメディアを中心に、7月の上旬から巻き起こったトレンドがありました。それが内田茂自民党東京都連幹事長と森元総理の利権やさまざまな疑惑です。見た目からして、わかりやすい「悪の帝国ネットワーク」です(笑)
発端は、猪瀬元都知事の暴露。どれだけ出回っているかは「内田幹事長 森元総理」で検索してみてください。今は大手マスメディアのネットメディアも出てきますが、7月上旬から投票日までだと、大手はどこもないはずです。
ネットでは「マスコミは本当のことを書かない」説が根強いですが、まさにそこにジャストミートしたコンテンツです。小池候補には、とんでもない追い風です。投票行動にどれだけ結びついたのかはわかりませんが、SNSやネットから見た風景はこんな風になっていました。
小池新東京都知事が戦うのは、この悪の帝国ネットワーク。初登庁直後から、自民党東京都連は子どもっぽい対応で、わざわざ悪役入りしていますから、大手マスメディアも安心して飛びつきます。識者は「劇場型だ。敵を作るのがうまい」と解説されますが、多くの国民にとっては、理解しやすく、どうにかしてくれと願うテーマではないでしょうか。
ネット発で、これからは全メディアも巻き込む、キラーコンテンツになりそうです。
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