2014年8月25日月曜日

お盆にSNSをやったら、こうだった




1月に『年末年始にSNSをやったら、こうだった』を、5月に『ゴールデンウィークにSNSをやったら、こうだった』を書いたので、お盆についても書いておきます。

夏休みって、社会人だと人それぞれのタイミング。夏休みのない人だって、大勢いらっしゃいます。だけどお盆ということになると、民族大移動のタイミング。ソーシャルメディア上では、一年のうち最もアクティブユーザーが減少する時期かもしれません。
8月の13日14日15日、そして土日の16日17日までを対象に、書ける範囲で書いてみます。

私のこれまでの理屈だと、「競争相手が少ないので、有利に展開できる」ということなんですが…

画像:足成からダウンロードさせてもらった盆踊りの写真



どうだったのか、最初にまとめてしまいます。

  • 企業アカウントは、ほぼ非アクティブ
  • それ以上にユーザーも非アクティブ
  • Facebookページのリーチが激減した
  • Twitterではアイドルが救世主
  • 過去の投稿にさかのぼって見てくれる確率が、高くなる


ということでした。



◎フェイスブックでは、こうだった


うちで運営させていただいているどちらのアカウントでも、13日〜17日の間は、投稿するネタがありませんでした。キャンペーン等もなく、つまりリアルな世界での、対応ができない期間だと言えると思います。

ですので、リーチが激減しても当然です。


[Facebookの競合ページ]で、わかったこと


競合社では、どうだったか。あまり[Facebookの競合ページ]について記事は少ないですが、Facebookページのインサイトでは、競合ページの動向をチェックし、比較することができます。

画像:Facebookインサイト[競合ページ]のスクリーンショット








調べることができるのは上の画像に書かれているように、[ページの合計いいね!][ページの新規いいね!][今週の投稿数][今週のエンゲージメント]のほか、[人気の投稿]などを表示することができます。

ここでチェックしているページのことだけですが、やはり13日〜17日の間は、ほとんどのアカウントが投稿をしていませんでした。
一方驚いたことに、毎日2件以上投稿されているアカウントもありました。ところが[ページの新規いいね!]がゼロで、[今週のエンゲージメント]も非常に低い数字が出ていました。チェックしながら、これは厳しい。運営してる人は、かなり可哀想…


もしかするとお盆の時期は、使い方が変化しているのかも


やはりアクティブなユーザーが少ないのでしょうか。
私の[友達]は仕事関係ばかりなので、ほとんど参考になりませんが、ログインしている人はかなりいて、普段と変わらないように思えました。しかし投稿は、ほとんどありませんでした。

一方、運営させていただいているアカウントでは、過去の投稿にさかのぼって[いいね!]してくれる人の割合が増加しているように思えました。リーチが激減しているので、仮にいつもと同じ数の、過去の投稿への[いいね!]があれば、割合からすると激増しているということになります。

あくまで想像ですが、ざっくり、こんなふたつのタイプに大別できるのではないかと。

◯普段と同じようにチェックはしている人 
中毒的にお盆もチェックは欠かさないが、投稿するまでの時間はない。もしかするとレジャーや帰省をしているが、投稿するのは家族の手前もはばかられる、ということなのかも。

◯普段はあまりログインしないが、休みだから気になる人やページをチェックする人
いつもスマホを手放さないというタイプではなく、休日にFacebook内をチェックし、お気に入りのところには重点的に見て行く、読んで行く。一度ログインすると、回遊している時間が長いのかも。

そして後者はFacebookの言う[いいね!]をしただけの[ファン]ではなく、もっと冷静なファンである可能性が高いのではないでしょうか。刹那的な[いいね!]だと、軽いですから。
Facebookは今月、[いいね!]を押すことを条件に、キャンペーンに参加させたり応募できたりする仕組みを禁止しました。

この仮説が正しいなら、冷静なファンに向けての事前の投稿、事前のアプローチを立案しておくと、有効かもしれません。私たちは[いいね!]の数やリーチに捕われていて、大切な本当のファンを見つける・対応することを疎かにしていたのかもしれません。




◎ツイッターでは、こうだった


Twitterでも、ツイート数は激減していました。毎日ツイートし、リプライしたりメンションしたりとコミュニケーションもしていましたが、拡散的にはけっこう辛いものがありました。ほぼ1対1のやりとりですから。

ところがエゴサーチしていると、あるアイドルの方がこちらのアカウントについて言及されていたので、どんな人なのか調べてからメンションしました。2回ずつのメンションでしたが、合計するとリツイートされたのが100回近く。お気に入りされたのが30ほど。言及しているツイートも、いくつかありました。
ほかにもモデルの人とのやりとりはありましたが、リツイートで数回ほどでした。


画像:Youtube『インフルエンサーって、誰?』のスクリーンショット


私の気持ち的には、アイドルは救世主です。いままでに絡んだことがないアイドルの方だったので、なおさら救われました。

ソーシャルメディアでのアイドルに対する考え方は、こちらに書いた通りです。
『インフルエンサーって、誰?』 





◎お盆という国民的イベントにも変化が


『年末年始にSNSをやったら、こうだった』に書いたのと同じですが、都心では飲食店も小売店も、ほとんどが通常営業しています。
ただ様変わりしてきているのは、お客さんはそれほど減るわけではないけれども、でも接客側は人手不足で大変なことになっているという実態があるそうです。もしかするとこの先、年中無休スタイルが変わって行く転換点なのかもしれません。


私自身は14日に会社に出てきて、仕事をしていました。
電車はガラガラ。渋谷の街は平日並の人出だったと思いますが、雨が降ったりして蒸し暑く、昼間も路面店のカフェチェーンやバーガーショップなどは、どこも混み合っていました。
それ以外の小売店では、やはり平日ほど。それほど人は入っていなさそうだと思っていました。

ところが夕方外に出たとき、予想もしなかった光景が広がっていました。

画像:小雨降る8/14の神南エリアの行列_1

画像:小雨降る8/14の神南エリアの行列_2

小雨降る中、少なく見ても300人程度が道の両サイドにぎっしり立っています。下の写真の左右にも、手前にも続いています。行列しているという感じではない。
セレクトショップ密集地ですから、異色のこの層は韓流スターのショップ目的だなと、一目瞭然です。それにしても、いったい何があるの?

検索してみると、代々木第一体育館でエイベックスのa-nation「Asia Progress」 が開催されたそうです。ツイッターによると、韓流スターのライブが終わると、ファンたちは大挙して会場から出て行ったということでした。
そうすると、この人たちは、入り待ちもしくは出待ちの期待? 


お盆には帰省ラッシュ。テレビや新聞では相変わらずそんな報道ですが、それだけじゃない。いるところには、いる。ソーシャルメディア上でも、あるはずです。
今のところ、間違いなく分かっているのは、アイドルは強い(笑) 




画像:ソーシャル代行しますバナー

2014年8月20日水曜日

ユーチューバーとGU、AKB48とトヨタのYoutubeコラボ




Youtubeを使った、あたらしい動きです。

画像:Youtube動画:SUMMER LOOKBOOK 2014 ♡10 Ways to Wear a Bra Cami♡GUブラフィールファッションのスクリーンショット


◎GUがユーチューバーでLOOKBOOKプロモーション


私もチャンネル登録して以前から注目していたのですが、sasakiasahiさんというユーチューバーがいらっしゃいます。(以前は[動ガール]と呼ばれていましたが、世界的にユーチューバーという名称になってきているようなので、ユーチューバーにしておきます)
三つのチャンネルを使い分けながら、基本メイクアップの動画をアップされています。ハロウィーンメイクアップチュートリアルから、アナ雪エルサ風メイク、古くはガングロメイクなどなど、さまざまなメイクをファッションから表情までトータルに、エンターテイメントのように見せています。

画像:sasakiasahiさんのYoutubeページスクリーンショット


その人がGUのブラフィールで動画を公開されていたので、ビックリしました。

[概要]にはGUブラフィールまとめ買いキャンペーンのページへのリンクがあり、最後には「この動画はguとのコラボレーションです。」と書いてあります。

GUが店頭にLOOKBOOKを置いているとは思えませんが、印刷物より、きっとこの動画の方がはるかに効果的でしょう。
sasakiasahiさんのチャンネル登録者数は277,600人(2014.8.19現在)を超えているので、GUにとっては、かなり有利なコラボだと思えます。

今回のGUは、3人のユーチューバーとコラボしたようです。


ユーチューバーという、あたらしい影響力のチャネル


日本でも、Youtubeに動画をアップして生計を立てる。そんな人がどんどん増えています。影響力でいえば、sasakiasahiさんはトップクラスでしょう。

ところが世界には、チャンネル登録者数が2700万人という桁違いのYouTuberもいるそうです。
ゲームで遊ぶだけで年収4億円を稼ぐ、スウェーデン人YouTuber
WIRED.jp



アメリカでは、「13~18歳の1500人を対象にした影響力のある人物に関する調査によるとトップ5をYouTuberが占め、トップ20の半分がYouTuber」という報告もあるそうです。
個人主義時代、米国の「YouTuber」10代にはハリウッドスター並みの人気と影響力
Weblog@


ジャンルに特化した世界では、日本でもユーチューバーの影響力がどんどん増して行きそうです。



◎トヨタは恋する充電プリウスで、地域展開


1年前にも取り上げていますが、AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」カバー動画は現在も増え続けています。公式はもうストップしているのかもしれません。
そんな中、プリウスのCMで「恋する充電プリウス」が始まったと思ったら、8月12日にこんな動画が公開されていました。



他にも「北海道・東北」「関東」「中部」「中国・四国」「九州・沖縄」バージョンがあります。
出演は、トヨタの販売店と地元の皆さんということですが、販売店の人たちは喜んでいるでしょうね。そしてAKB48はTeam 8が出演。Team 8って何?と思って検索したら、今年の1月からメンバー募集していたんですね。「会いに行くアイドル」がTeam 8みたいです。



だけど「各都道府県47人」が選ばれてメンバーになったのなら、こんなに大きなくくりのエリアじゃなくて、各都道府県版を作らないと。
それぞれ方言を使った歌詞は面白いのですが、もっとご当地の言葉になった方が親近感がわきますよね。



一番気になるのは、AKB48 × TOYOTAはトヨタのYoutube公式チャンネルで公開しているところ。GUのユーチューバーコラボは、それぞれのユーチューバーチャンネルから。
AKB48ファンを誘導するという目的なら、選択ルートをミスっているのでは。ユーチューバーのファンを誘導しているGUが、とても柔軟に思えてきます。






2014年8月12日火曜日

渋谷スクランブル交差点の何に、外国人は興奮するのでしょう





以前からスクランブル交差点を撮影する外国人観光客は、やたらといます。あらゆる人種がスマートフォンやタブレットはもちろん、一眼レフやビデオカメラを構えて撮影しています。
昼間も夜も、やたらといます。

最近、複数のテレビ番組で、外国人観光客が「日本で行ってみたい場所1位」が渋谷のスクランブル交差点なんだと外国人が言っているのを見ました。なんか、ウソみたいですけど。Youtubeにも動画が数多くアップロードされています。
かつては、アリみたいだ。あんなに人が行き交っていて、ぶつからないのはミラクル。日本人はみんな忍者か。みたいな反応だったと思いますが、最近はCOOL!だと言われているらしいです。「スクランブル交差点を渡った」というのが、自慢になるそうです。

スクランブル交差点が観光名所…



この映像なんて、日本でのプロモーションのためというより、ただ海外向けに「渋谷のスクランブル交差点を渡ったKISS」という画が欲しかっただけなんじゃないのと思ってしまいます。いったい、どこがCOOL!なんだか。
もちろん目撃してたら、私も興奮しますが(笑)
KISSONLINEというYoutubeチャンネルですから、公式みたいです。





映画の中に登場するスクランブル交差点


なんといっても渋谷全体をメインの舞台として使った、2003年のソフィア・コッポラ「ロスト・イン・トランスレーション」。
スクランブル交差点も最後に出てきますが、この映画によって渋谷に行きたい、スクランブル交差点を渡ってみたい。カラオケに行きたいという外国人が増えたそうです。





もっとスクランブル交差点がクローズアップされているのが、2010年『バイオハザードIV アフターライフ』。冒頭が、雨のスクランブル交差点。T-ウィルスの日本初感染者役で、中島美嘉さんが渡っているシーンから始まります。そして交差点地下には、巨大なアンブレラ社の要塞が築かれていた… 
渋谷のダンジョンは、そんなものがもしかしたら隠されていても、おかしくないかも。
と思わせるほどの複雑さです(笑)

バイオハザードが観光に与える影響はなんともわかりませんが、かなり印象深い扱い。異質なものとして扱っているのは、バイオハザードぐらいかもしれません。2008年の『Junper』でもテレポテーションした先で一瞬だけスクランブル交差点が出てきますが、大都会の記号的な扱いです。


映画以上に頻繁に使われているのが、MVです。ONE DIRECTIONなど、メジャーどころも使っていますが、やはり記号的。人が行き交ってる中を、メンバーが歌いながら歩いて行くだけ。
そんな使い方で何が面白いのだろうと、私などは思ってしまいますが、もしかしたらそれが勘違いなのかもしれません。ニューヨークやロンドンの町並みを映像で見て、カッコイイと思ってしまう。ヴェネチアの大運河に魅了されたり、揚子江に圧倒されたりするのと似たような感覚なのかもしれません。

どう感じられているにしろ、世界中で映画やMVが露出することで認知が上がるのは、観光にはプラスですね。


日本人アーティストは、もっと異質に描いている


日本でも、MVで数多く使われています。特に宇多田ヒカルさんのこの作品では、246の池尻方面から渋谷の中心部のありとあらゆるところが使われています。



しかし無人の渋谷、無人のスクランブル交差点しかでてきません。SF的な乗り物より、そこが面白い視点です。もしかしたら、ただ早朝しか撮影できなかったという事情があったのかもしれませんが。


8月末に公開されるコミックが原作の映画『TOKYO TRIBE』では、渋谷はとんでもないことになっているようです。
園子温監督ですし(笑)



もっと異質に見せた作品もあります。
ショウダユキヒロさんという映像作家の作品なんですが、MVになっています。


店の中の映像は別ですが、よくまあこんな通路が、コインロッカーの場所が、こんな小道がこんな印象に変わるもんだと驚きます。



渋谷という土地が持っている記憶


渋谷西武A館とB館の間から東急ハンズへと向かう、宇田川通りの下には文字通り宇田川が流れている。1964年の東京オリンピックに向けて、暗渠化されたそうです。
現在は下水道として使われているとのことですが、再開発で解体されている東急東横店東館の横を通り、渋谷川に注がれていると、さまざまな本に書いてあります。

渋谷川自体も暗渠化されていますが、246号線の南から姿を現せています。これを2020年の東京オリンピックに向け、「春の小川化」しようというのが再開発計画のなかに入っているそうです。


また中沢新一さんの『アースダイバー』という本には、その昔、宮益坂には死体処理を生業とする人たちが住んでいた。神泉は古代から火葬場で、霊能者が住み着いていたと書かれています。
アースダイバーの手法には批判も少なくないようですが、渋谷の街を知っている人なら、あやしさを纏っているのは誰でも感じていますよね。古くからの繁華街は、どこでも、そうですけれども。

特に渋谷は、スクランブル交差点を谷底として、そこから放射線状に坂がのびている。下から見上げている風景は、少し坂を上るとまったく異なる風景になる。Y字が多く、斜めに進むと異なるカテゴリーの街並みが現れる。少し歩くだけで、知らなかった渋谷が姿を現す。

2020年の東京オリンピックに向けて、超近代的な渋谷駅周辺の再開発が始まっていますが、谷底から広がる街の構造は残るようです。
外国人観光客が、スクランブル交差点を渡ってみたいと感じるのは、きっと人の多い都市ということだけではなく、あやしさや多様な表情を見せる計算されていない面白さを、どこかしら感じているんじゃないかという気がします。




デザインする制作会社です


2014年8月4日月曜日

行動観察とピープル・アナリティクスという潮流




最近読んだ二冊の本で、面白い流れなのかもしれない。しかも両者が絡み合って、とんでもないことになるかもしれないと予感させるものがありました。

ご紹介します。


◎言葉は語らない、行動はすべてを語るという「行動観察」の基本





大阪ガス行動観察研究所の所長が書かれた本です。
実話なのかどうなのかはわかりませんが、行動観察のセミナー会場を見渡した国立大学の教授の言葉が冒頭の方で紹介されています。
「やはり、若い人が多いね」という言葉から始まっていて

「今ね、日本の歴史ではじめての事態が起こっているのですよ」
はじめての事態といいますと?
「年配の人たちの言うことを聞いてその通りに動いても、うまくいくとは限らないということです。たとえば昔は、台風が迫っているときに田んぼや畑を守るためにはどうすればいいか、年長の人に聞き、知恵をもらっていましたよね。そして、その通りにすればうまくいったものです」
でも、今はうまくいかない
「そう。今は、経験豊かな年配の人たちのアドバイスをその通りに実行しても、うまくいかないことが多くなってきたのです。若い人たちは非常に困っています。だからこそ、行動観察のような新しい観点の方法論に、興味を持っているのだと思いますよ」

という著者との会話。私は「行動観察のような新しい観点の方法論」というフレーズに違和感を持ちました。行動観察は、昔からあるでしょうと。
そこを除けば、まったくその通りだと思います。実話じゃなければ、上手い寓話だと思います。

 著者は、静的であること、すなわち変化のない状態を前提としてビジネスを考えるなら「ニュートンのように思考する」ことが可能である。しかし、動的であることを前提とすれば、「ダーウィンのように思考する」必要がある。
そして変化を前提とするなら、科学的な「再現性」を担保することはできない。そのときどきの環境に合わせて、どうすれば適合できるかを考える必要。と述べています。



行動観察とは、なにか


本書では、具体的な行動観察プロジェクトの5つの事例が紹介されている。
「高齢者が本当に求めているもの」「中国人観光客のまだ見ぬニーズを探る」「飲食業のサービスのスタンダードを作る」「工事職人さんのCS(顧客満足度)を上げよう」という詳細な4例と、「主婦の行動を観察することで生まれたコンロ」というプロセスの概要を紹介したものがあります。

コンロは、リクシル社の依頼で行なった調理行動観察から生まれたものだそうです。
→10人の主婦の普段どおりの調理行動を観察
→一人あたり3時間程度の観察で、分析のためのビデオ撮影も
→コンロ上で調理に使っていない鍋やフライパンが右往左往し、3つのバーナーが同時に使えていないことがわかった
→加熱した鍋類の余熱を冷ます、加熱後すぐに盛りつけしないなどが理由だと分析
→バーナーとバーナーの間の距離を広げるというソリューション



行動観察においてはFIREが大切


「ファクトFact(事実)」を集め、解釈して「インサイトInsight(洞察)」を導き、「リフレームReframe(枠組みの再構築)」された発想でソリューションを提供する。そして、これらのプロセスを行なううえでは「ナレッジExtensive Knowledge(幅広い知見)」が必要である。

と書かれていて、その頭文字を取ったのがFIRE。
幅広い知見とは、<人間工学><エスノグラフィー><環境心理学><社会心理学><表情分析><進化心理学>や、ほか多くの学問分野からの知見を活用するということです。


私は読んでいて、主婦の中には「鍋やフライパンの余熱を冷ましたりできる場所があれば便利なのに」と考えている人たちは少なくないでしょう。4つの事例の中でも、高齢者が求めているものや飲食業サービスについては、そんなに仰々しいことをしなくてもわかるでしょうという疑問が浮かびました。確かに中国人観光客のニーズなどは、行動観察という密着取材が最適そうです。
また逆に密着する人や分析する人の、感受性によっても左右されないでしょうか。ファクトを集めるといっても、見えていない、気がつかないということは往々にしてありそうです。

この本にも出てきますが、「行動観察」自体は子ども観察が起源。著者は、児童心理学などとは違うものとして定義されていますが、観察手法自体は同じはずではないでしょうか。近年、アメリカや日本でも発達障害とされる児童が増えているといわれますが、私は観察・判定する人の感性によっても、かなり左右されるのではという気がしています。


ただ私のように、「そんなに仰々しいことをしなくてもわかるでしょう」と思ってしまうと、思い込みによる予断がありすぎる判断。あるいは速過ぎる変化についていっていない認識に陥る可能性も、少なくありません。
そういう視点では、本書の提唱する行動観察の手法は有効だと思います。
今は、お手軽でほぼ自動的にできるようなネットリサーチが全盛の時代。でもお手軽なものは、小ネタにしかならず、雑談で消えていくことが大半かもしれません。そんな中、手間ひまのかかる行動観察は貴重ですね。






◎センサーによる行動記録で、理想の職場をつくるという職場の人間科学




こちらはMITメディアラボ出身の経営コンサルタントによって、書かれた本。
ここで提唱されているのも「行動」がキーになりますが、観察するのではなく、ウェアラブルなセンサーをつけて、働く人たちの行動/コミュニケーションを継続的に記録し、そのビックデータの解析から生産性の向上や職場の環境改善につなげるという内容。


センサーバッチによって把握できること


Googleグラスみたいなものが実用化されているのだから、こんなウェアラブルなバッチがあっても不思議じゃないですが、Bluetooth・赤外線センサー・加速度計・マイクロホンなどが入っていて、職場での位置情報、誰と話しているか、話し方の速度や声の高さ強弱といった会話の特徴、時間や人数などを測定して記録するというもの。
社外の人や店舗のお客さまなど、バッチをつけていない人との会話も「誰と」以外は測定し、記録。
このバッチ、MITが開発したソシオメーター(社会学的な計測器)と呼ばれるものを、さらに進化させたものだそうです。

ソシオメトリック・バッジ http://hd.media.mit.edu/badges/

マーケティング以外でのビッグデータの活用


この本に出てくるマーケティングでの恐るべきビッグデータパワーの例。アメリカ第五位の小売業「ターゲット・コーポレーション」が開発した妊娠予測アルゴリズムの精度が、あまりにも高いという実話だそうです。

ターゲット・コーポレーションでは25種類の製品カテゴリーの購買行動を分析することで、非常に高い精度で出産を予測でき、出産日までかなり高精度で推定できるようになった。
このプログラムを使って、ある女性の妊娠を割り出し、自店舗で買いものしてもらおうと大量のクーポンを彼女に送った。
ところが彼女はまだ高校生。それを見た父親は「高校生にベビー服やベビーベッドのクーポンを送りつけてくるなんて! 娘に妊娠しろとでも言うのか?」と怒鳴り込んだ。店長は謝罪し、なんとか父親の怒りはおさまった。
ところが後日、店長が改めて謝罪の電話をかけると父親は「実は家の中で私の全く知らないことが起きていたようで」八月の出産予定だと謝ったという。

笑える話ですが、妊娠後の購買行動なら、劇的に変わるかもしれないですね。

こんな風にビッグデータが使える話はマーケティング分野では、けっこう出てきますが、人事的な分野での活用例は皆無だと思います。



コールセンターでの生産性向上策


コールセンターといえば、私語が禁止、通話時間が把握され、頻繁に指導を受け、恐ろしく管理された、離職率の高い過酷な職場だという印象があります。
ところが本書では、「チームのメンバー全員が一斉に15分間休憩する時間を設けた方が、相互のコミュニケーションが高まり、業務に好影響をもたらす可能性が高いということがわかった」と書かれています。コミュニケーションがあればストレスが軽減される、困ったときに誰かが助けてくれるなど、対面のコミュニケーションの重要性が語られています。つまり「雑談が生産性を上げる」と。

コミュニケーションの重要性を多くの人が感じていても、客観的に裏付けるデータがなかった。それがセンサーバッチによって明らかになったということです。
確かに裏付けるデータがあると仕組みにしやすいでしょうが、管理方法を考える人たちが何日間か「自分で経験」してみれば理解できることだと思います。
これぐらいの成果なら、仰々しくセンサーを付けてのデータ収集も解析も必要ない気がします。

ところが「休憩で従業員どうしが和気藹々とおしゃべりしている」と、受注率に対するその影響力は何パーセント上るという相関関係まで判明すれば、がぜん力の入り方が変わってきますよね。たぶんそこまで検証しているはずではないでしょうか。



組織図とは異なるソーシャル的な構造に注目する



本書では、組織を「凝集性が高い組織」と「多様性が高い組織」の二つに大別しています。

「凝集性」とは、人々同士が会話する集団-つまりネットワーク-のつながりの強さを指す。凝集性の高いネットワークとは、人々が互いにたくさん会話をする集団だ。ネットワークをクモの巣と考えてみてほしい。点を人間、線をコミュニケーションとすると、凝集性の高いネットワークは、糸がぐちゃぐちゃに絡み合ったクモの巣のような格好をしている。
本書で「多様性」という言葉を使う時には、たいてい人口統計的な意味での多様性ではなく、社会的なつながりという意味での多少性を指すものとする。つまり、同じ集団内の人とばかり話しているのか、それともネットワーク内のいろいろな人々と話しているのかだ。多様性の高いネットワークは星のような形をしていて、中心にいる人物から多方面に線が伸びている。

著者はどちらがいいと言っているわけではなく、バランスが肝心だとしている。

たぶん凝集性も多様性も、組織図とはあまり関係がないのでしょう。というのも、バッチをつけて会話を測定していると、異なるネットワークの人たちと会話する中心になる人の存在が浮かび上がってくる。
「中心性の高い人物ほど、大きな権力や影響力を持ち、他の人々よりもいち早く情報を得られるというのは容易にわかる」とのことですが、私は中心とか権力ということよりも、公式ではない意思疎通の流れを媒介する人がいなければ、組織は自律的に機能しないのではと思います。もう20年以上前ですが、個人的にそういうつながりを「自律的組織」と呼んでいました。

社長や部長や課長が出来た人、有能な人なのではなく、役職に関係なく部署を横断して意思疎通を行なう人たちがいる。だから自律的に、ダイナミックに組織が動いていくんだと言っていました。

本書では、ただの中心とか媒介ではなく、「その人物と会話することで他の人間の生産性が上昇する、いわゆる非公式なエキスパートの存在が明るみになった」と言います。自身の生産性ではなく、他者の生産性を上げることでグループに寄与するこのようなスタッフの存在も、「People Analytics」を取り入れることで正当に評価することができますと書いています。


センサーをつけて記録するとかピープル・アナリティクスという言葉を聞くと、ガチガチに管理・監視することを連想してしまいますが、そうでもなさそうです。
もちろん、常にプライバシーの侵害につながりかねない懸念はありますが。





「行動」に着目した二冊の本。
前者は言葉にならないノンバーバルなニーズを、個人個人を観察することで浮かび上がらせようとするもの。
後者は、会話で使われている言葉自体ではなく、抑揚など感情面を推測し、ネットワークとともに定量化しようとするもの。

同じ「行動」を捉えていても、アプローチがまったく違っているのですが、この二つの流れは、そのうちある分野では合流しそうな気がします。








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