とりあえず文字で説明するより、[WEAR]の ティーザームービーがあるので、それを見てください。
なるほど、気になったものは片っ端からセーブして、ゆっくり検討する。検討中のものに、友だちからの意見ももらえるし、買いたいとなったらすぐに行く。ということなんですね。
お店じゃなくても、その商品はZOZOTOWNでも買えるそうです。買ったものを着て、[WEAR]内のSNSにアップロードできるみたいです。
そういう仕組みを知ると、要するにネット通販のZOZOTOWNとリアル店舗のシームレス化と言っていいんだと思います。ZOZOTOWNにはZOZO PEOPLEという、ほぼファッション専用SNSがあって、コーディネートのスナップ記事が投稿されていたのですが、[WEAR]がリリースされて、スナップ投稿は10月31日で終了となっています。
スタートトゥデイの社運をかけたプロジェクトですね。[WEAR]が拡大すれば、ZOZOTOWNの利用も広がる。[WEAR]がダメなら、ZOZOTOWNもおかしくなる。
たぶんZOZOとすれば、ZOZOTOWNで、ネット通販でファッションを買わなかった層を取り込みたい。ブランドショップ側からすれば、売り逃しを少しでも減らしたいというのが狙いでしょう。
ショールーミング化のその先へ
リアルなブランドショップで「いいかも」と思う服のデータをSAVEできたら、ネットでその品番を検索、一番安いショップで買うことが出来てしまう。つまりリアルショップのショールーミング化が加速する?
たぶん、そんなことは起こりにくいでしょう。同じような商品ならともかく、そのブランドの同じ商品は、ほとんどそのブランドのショップにしか置いてないはずです。
インポートブランドなら、並行輸入しているところや海外から販売することも可能。どこにでもあるような商品なら、代替品を買う選択肢はいくらでもありますが、今回PARCO内で参加しているのは、独自性のあるブランドを確立しているショップばかりです。
インポートブランドなら、並行輸入しているところや海外から販売することも可能。どこにでもあるような商品なら、代替品を買う選択肢はいくらでもありますが、今回PARCO内で参加しているのは、独自性のあるブランドを確立しているショップばかりです。
具体的な数字は出ていませんが、こんなことを書いている本があります。
セレクトショップのユナイテッドアローズでは、ECサイトの立ち上げ当初、リアルショップの売上が減少してしまうのではという懸念から、全社的な取り組みになっていなかったそうです。ところがECでの売上が上昇するにつれ、ECで買っているヘビーユーザーは、リアルショップでの購入量も、むしろ増やしている傾向にあることがわかったそうです。
ユナイテッドアローズからすれば、ECとの連携を強化することによって、売り逃しを減らし、購入機会を増やすことができるとというわけですね。
ユナイテッドアローズからすれば、ECとの連携を強化することによって、売り逃しを減らし、購入機会を増やすことができるとというわけですね。
これと同じようなことが、[WEAR]で起こるかどうか。『人気店はバーゲンセールに頼らない』を信じるのであれば、ユナイテッドアローズファンは、強いロイヤリティをUAに感じているんでしょう。[WEAR]に参加しているブランドが、そこまでかどうか。[WEAR]自体が、そこまでの価値を感じてもらえるかどうか。そして実験に参加しているPARCOという集積ビルに、メリットがあるかどうか。そこのところは、まだ未知数です。
ただ、ショールーミングに怯えた対策を取るよりも、積極的にショールーム化しよう。それがブランドショップにしても、ファッションビルにしても付加価値になる。そういう判断の方が、意義があるはずでしょう。
PARCOの立場からすれば、他の競合ビルと異なるブランドを集めるのが最優先だと思いますが、仮に同じものを売っていたとすれば、駅にあるルミネや駅のそばにあるマルイに優位性があります。異なる施策を取ろうとすれば、[WEAR]が集客の付加価値になる。新しいブランドの取り込みにも、付加価値になると考えているのでしょう。
上に貼った[WEAR]の ティーザームービーは、英語 Ver、韓国語 Verがすでに公開されています。ショップからすれば、[WEAR]を通じた海外での販売も期待できるという計算でしょう。ユーザーが買った服を着て、[WEAR]にアップロードしてくれれば、それを買うことも可能になるんじゃないでしょうか。
ただ便利なネット通販から、世界感の共有へ
ないとは言えませんけど、たぶん付加価値は、値段の安さという方向には行かない気がします。きっとそういう方向だと、ファッションジャンルで明るい未来はなさそうです。
実店舗とのシームレス化ではないですが、こんなアプリをルイ・ヴィトンが今月リリースしました。これも動画がありますので、それを見てください。
Louis Vuitton Passというアプリです。
当初、ルイ・ヴィトンが新しいキャンペーンにデヴィッド・ボウイを起用した。その第二弾CMはアプリで先行公開というニュースで知ったのですが、Louis Vuitton Passはキャンペーンの世界感を共有したり商品情報を知るためのものだけではありませんでした。
スキャンではないようですが、CMやカタログなどに登場する新製品を買うことができるものでした。
PCサイトからも買えますが、ただスマホサイトで買うだけなら、それこそオフィシャルコンテンツはショールーミングに使われてしまうだけでしょうから。
こんなに付加価値を付けて簡単に買えてしまうとなると、お金持ちの間で、とんでもなくオソロシげな会話が交わされそうです。これを11月にリリースするというところが、ハイブランドの、いやらしさを感じます(笑)
ここまでではないにせよ、[WEAR]を利用して買うということが付加価値になるような方向に進むのではと、私は予想しています。
O2Oは狭い趣向の、付加価値のあるシームレスな世界へ
少し前の東洋経済ONLINEにこんな記事がありました。
ウェブ版とアプリで展開する[tab]というサービスだということです。
ライフスタイル雑誌、旅行雑誌、ファッション雑誌などの誌面で組まれる特集を思い起こしてほしい。「下町探訪」「世界遺産」「渋谷の夜カフェ」「30代女子の通勤スタイル」など。tabでは、そうしたテーマをユーザー一人ひとりが作れる。テーマごとに、“行ってみたい”“食べてみたい”“買いに行きたい”などのリアルの場所を集めて、自分の“tab帳”としてまとめる。自分の興味関心、独自の目線やセンスで作れる“My 雑誌”というわけだ。
スクラップブックのように自分で集めるだけではなく、自分の友人・知人、興味関心が合う人、参考にしたい人をフォローして、行きたい場所をみつけることができるという。
[tab]で参考にしたい人を捜すのは、大変そうです。たとえばFacebookやGoogle + のコミュニティで自分の趣味に合うものを探しても、それほど活発ではありません。それを上回るものを、[tab]が集められるでしょうか。
[WEAR]はファッションに特化していますが、そんなにファッション好きで、人に「どう?」って見せたい人が集まるかどうか疑問です。でもここがポイントで、ZOZO PEOPLEのスナップ投稿機能は引き継がれます。今までの利用者が、そっぽを向かずに[WEAR]に移行するかどうかが、分かれ目。ZOZO PEOPLEは、なんどかチェックしたことしかありませんが、大勢のファッションピープルが集っていました。ZOZO PEOPLE以外には、類のないコミュニティでしょう。
原宿・表参道や渋谷の神南エリアには、信じられないほどオシャレな若い男性が大勢います。20代半ばぐらいまでだと思いますが、ファッションに費やすお金も桁違いだそうです。この人たちは、雑誌やネットメディアの取材を受け慣れてるぐらいでニッチ過ぎますが、そこまでは行かないけれども、ファッションに関心が高く、写真も撮られ慣れ、公開され慣れている人たちは大勢います。たとえば美人時計などが一般化することによって、出ることのハードルは大幅に下がってますよね。
[WEAR]が形成しようとしているコミュニティは、政治主導のCOOL JAPANより、世界中からファンを集める可能性を感じます。
境目のないO2Oの吸引力になるものは
フードビジネスでは、クーポンなどの施策がこれからもメインになりそうです。ある調査によると、直近一年間に最もクーポン利用されたのは「ハンバーガー店(ファストフード)」で、64.1%という驚異的な数字です。
2013年2月 マイボイスコム「クーポン利用」
これはマクドナルドやロッテリアなど、供給側の過剰な配布によって、「クーポンがあって当たり前」が常態化しているのが原因だと思われます。
一方で、米国の外食離れ加速、健康志向が後押し=調査というロイターの記事では、「マクドナルドやバーガーキングが低カロリーメニューを開発している」という趣旨のことが書かれていて、クーポンが集客ツールとしての影響力も低下しそうです。
健康的で低カロリーを求める消費者を引きつけるのは、商品もさることながら、イメージの転換や実態を訴求するコンテンツ、そしてコミュニティの形成が不可欠になるのかもしれません。
当面の間は、クーポンや「O2Oの、これから」に書いたような、どこでも使えるポイントの仕組みが強いと思いますが、買いものの仕方、楽しみ方はとんでもなく変わっていきそうです。
O2Oは、リアルとネットの送客がどうのという段階から、一気に境目のない融合の段階に進みつつあって、どこでも買える、どこでも情報に接することができるという状況が現実になっています。
そうなると、こんなことが考えられるのではないでしょうか。
1.知名度があればあるほど、いい情報と同じように悪評に接する機会が出てくる。
2.誰から買うか、どう買うかが問われる。
1.は消費者の多くが暇つぶしではなく、買いものでネットを利用するようになった場合、価格比較だけではなく、評判やその店の姿勢を問うようになるのではないでしょうか。
実はネット通販の利用者は、日本人全体の、まだ1/3程度でしかありません。
(出典)総務省「ICTインフラの進展が国民のライフスタイルや社会環境等に及ぼした影響と相互関係に関する調査」(平成23年) (総務省「通信利用動向調査」により作成)
総務省の平成23年版 情報通信白書によれば、電子商取引(BtoC)利用者の年間平均購入品目数は2.5個。15歳以上におけるインターネットショッピング利用率は、平成22年で36.5%です。
今までは、実店舗で家電を見て、ネットで検索して最安値を買う。いわば金銭的な損得での利用が多かった。だからこそ、価格.COMのPVも伸び続けた。
でもこれからは、実店舗で買うにしてもネットに接続して調べる人がもっと増える。ネットで調べて、ネットで買う人が増える。そうすると、金銭的な損得のプライオリティがどうなるかはわかりませんが、“評判”がより重要な要素になることは間違いないでしょう。
ネットでブラックだと叩かれている企業は、実際の店舗の売上に響いているようです。
2.は、たとえば先にあげたLouis Vuitton Passというアプリですが、このアプリで購入するのは、実際のヴィトンショップで買うのと同様のポジションかもしれません。いや、もしかすると人によっては、実際のヴィトンショップ以上の付加価値を感じるかもしれません。
少なくともディスカウントショップやリサイクルショップで買うのとは、異なる気分なのではないでしょうか。
上で使っている通信情報白書に、こんなデータがありました。
これによると、価格比較サイトを使っている人が約1/3。
それ以上に特定のECサイト、特定のECモールで購入している人がかなりの割合を占めます。慣れ親しんだところでという理由もあるでしょうけど、あちこちでクレジット番号や個人情報を入力したくないという気持ちも強いのではないでしょうか。たぶん「特定のECサイト」の大多数は、アマゾン。「特定のECモール」とは、楽天でしょう。
いかにもO2O事例的な行動では、「店頭で実物を確認 →ECサイトで購入」が17.2%、「ネットで見た商品を店舗で確認 →ECサイトで購入」が14.6%となっています。
今までネット通販を利用したことがなかった2/3の人が利用するようになるとすれば、それは従来より保守的、あるいは慎重な使い方だろうと想像されますし、損得とは異なる動機づけが必要になると考えられます。
[WEAR]は、どこを拡大しようとしているのか
私は今月頭に、渋谷PARCOでこんなフライヤーをもらいました。[WEAR]のフライヤーです。内側には、[WEAR]の使い方が書いてあります。
受け取りましたが、いやぁ〜私が[WEAR]を使うわけないじゃんと思っていたら、それ以降も三回ほど渡されそうになりました。前に書いているように、PARCO BOOK CENTERには行きますが、行くたびに渡されそうになっています。さすがに、おかしいだろ。
服も年に1回ぐらいはPARCO で買いますが、買うような店は[WEAR]に参加していませんし。だいたい[WEAR]のメインターゲットは20代半ばぐらいで、おっさんが使うわけないし対象にしてないだろと思ってたら、スタートトゥデイの代表がこんなことを言っていました。
EC事業者としては、これまでECで服を買った事がない人は当然狙いになるでしょう。あと、若い人はもちろんですが、個人的にはおじさん世代に使ってもらいたいですね。お父さんがたまに料理をする時にレシピを調べるように、コーディネートを気軽に検索して試してもらって、お洒落なおじさんが増えればいいな、と思っています。【インタビュー】スタートトゥデイ前澤代表に聞く「WEAR」の狙いと海外進出 - Fashionsnap.com
えええっ!? ですよ。そこは間違いですよね(笑)
層の拡大はやめて、海外だけにした方がいい。と思っていたのですが、よくよく考えると、今30歳の人も10年経てば40歳。もしかしたら既婚で子供がいても、自分で服買うような人たちが増えてるかもしれないな。
そこで買える機会を増やす、買い逃しをさせないということなら、シームレスなO2Oは必要だわと考えるようになりました。
これからのリアルもネットも関係なく、つながった世界。いつでも、どこでも買える世界を考えると、層の拡大も当然かもしれません。