TOM FORD
9月7日(日本時間では9月8日)トム・フォードは、2016-17年秋冬コレクションをライブストリーミングでニューヨークから世界に向けて配信。そして配信終了後にショップに行くと、見たばかりのコレクションが販売されているという“SEE NOW,BUY NOW”をやったというのです。
トム・フォードは、サンローランおよびグッチグループ全体のクリエイティブ・ディレクターを歴任したハイファッションの代名詞的デザイナー。ラグジュアリーファッションすぎて、あまり一般的ななじみはありませんが、六本木など一部地域や芸能人には高い人気があります。またパクリまくられることでも有名です。
トム・フォードは、どうして“SEE NOW,BUY NOW”に行ったのか
その動機はAFPによると、「世界は”immediate-即座“という考えが増えました。現在のコレクションの発表方法は、発表してから実際に入手できるまで約4カ月の期間が必要で、それは時代に沿った考えとして理解ができない状況になっていると思う」とのことです。
「トム フォード」コレクション発表後すぐ発売スタート
いろいろ書くよりも、この動画を見てください。ショーの前日、VOGUEのインタビューに答えています。See Now Buy Nowだけではなく、ソーシャルメディアの影響やインターネット後の世界についても率直に語られています。
トム・フォードが語った、最新See Now Buy Nowコレクション。
「業界のイベント」から「消費者志向のショー」に変更したいCFDA
今年の1月、WWDにこんな記事が出ていました。アメリカファッション協議会(CFDA)は「シーズンの半年前に、エディターやリテーラーなど限られた観客を対象にランウエイショーを行い、消費者がそのアイテムを手にするのは半年後、という現行のファッションシステムはもう崩壊している」と考えているというのです。
ダイアン・フォン・ファステンバーグCFDA会長は、「デザイナーからリテーラーまで、あらゆる人たちが、ショーについての苦情を申し立てている。ソーシャルメディアが発達したため、人々は混乱しており、現行システムがどうにも機能しないようになった」と述べる。「消費者がインスタグラムやウェブサイトで見た服を買いにショップに行っても、6カ月待ってくださいと言われてしまう。もうこれからは消費者優先のショーにした方がいいと、誰もが考えているのではないかしら」。
CFDAはボストン・コンサルティング・グループに、将来のファッションショーの在り方を明確にするための調査を依頼したとも書かれています。
未来のファッション・ウイークは「業界のイベント」から「消費者のイベント」に!?
その調査結果や提案が、BCGから行われる前に、トム・フォードは先駆けてやってしまったというわけですね。
ただWWDの記事にもあるように、システムは崩壊していないと考える人も少なからずいるようです。ラグジュアリー顧客は「待つことを楽しむ人もいれば、先行プレビューを見て、先に手に入れる特権を欲しがる人もいる。誰もが春の服のランウエイショーを2月に見て、それを2月に買いたいと思うかというと、それは疑問だ」という意見も。
どうなんでしょうか。日本ではラグジュアリーブランドではなくても、先行予約会なんてことを多くのセレクトショップなどでもやっています。母集団が少なくても、人とは違うものを買いたいというクラスターには、有効な方法だという気がします。数量限定発売などで行列ができる現象も、同じことだと思います。
もうひとつ、トム・フォードに限らずラグジュアリーブランドがショーを行うと、必ず模倣される。ハイファッションの傾向がトレンドの幹をつくるのですから、当然パクられてしまいます。ディテールレベルだと、すぐにファストファッション化されてしまいます。できるだけ回避するためにも、デザイナーの側からすればSEE NOW,BUY NOWでやりたいと考えるのが自然な流れではないでしょうか。
「消費者志向」とは、タイミングを合わせることだとしたら
「業界のイベント」とは、バイヤー、プレス、ショップなど関連業界に向けたプレゼンテーションで、受注・生産のためのお披露目会のようなもの。それが「消費者志向のショー」になるとどうなるでしょうか。
CFDAの会長はアポイントメント制プレゼンテーションなどで、リテーラーやプレスには半年前にコレクションを披露し、受注するというやり方もありで、「そしてオン・シーズンになってから、消費者を招いたランウエイショーを大々的に開催してショップに並んでいる商品を披露すれば、ソーシャルメディア現象の恩恵を丸ごといただけるわ。現行システムで得をしているのはコピー業者だけよ」と考えているようです。
情報の流れ・拡散のピークだけで考えれば、ラグジュアリーブランドなら私は順番が逆のような気がします。熱心なファンとプレスを招いた小規模なショー。それからリテーラーを招いた受注会の順ではないでしょうか。
同時に見せても、プレスより先に熱心なファンがソーシャルメディアで拡散してくれます。ネットメディアでも、ニュース系はスピーディに発信しますが、マガジン的なところはそうでもありません。
ともかく熱心なファンが気になったアイテムを発信し、拡散される。リテーラーは勘や今までの傾向よりも、ソーシャルメディアの評判を見ながら発注する方が確実に思えます。
そしてその先には、もちろんブランドの投稿からそのまま買えるリアルなSEE NOW,BUY NOWがあり、中飛ばしがあるのかもしれません。
ラグジュアリーブランドにとっては、先行市場を確実に、ダイレクトに手中にすることが最優先ではないでしょうか。ファッションに特徴的にお金を使うのは、どんな調査でもごく一部です。
渋谷の街頭で行われているイベントを見ていると、「撮影禁止」の札を掲げているものも半数近くあります。後日、公式の動画やメディアに加工されたもので出て来るのですが、拡散度合いはやはり低い。一般の人のソーシャルメディアでの発信のピークは、とっくに終わっているのです。
トム・フォードがVOGUEに語っている言葉が印象的です。
だってもう、そんな世界は存在しないんだから。
もう存在しないことを考えることはできない。
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