2013年3月22日金曜日

バイラルの構造

著名なソーシャルメディアマーケティング、特にバイラルに強いコンサルタントの方が「共有・拡散」についての文章を書かれているのを読みました。
「魅力的なキャンペーンコンテンツによって、ソーシャルでの拡散を実現します!」みたいな話がよくありますけど、そんなに上手く行きませんよね。的な書き出しから始まります。

いやホントです。その通りだと思うんです。制作とソーシャルメディアでの仕掛けで、仮に500万円掛けたとします。TwitterやFacebookで、5,000人に共有・シェアされて、その友だちやフォロアー700,000人に届いた、として。70万人が全員、元の情報に接したなんてことあり得ませんけど、とりあえずその通りだと考えて、一人当たりのコストは7円強。これなら成立するでしょうけど、5,000人に共有・シェアされたケースは、なかなかないでしょう。
これが一時的なコンテンツじゃなく、何年も使われるものなら、まだありかもしれません。気になってチェックしてきたのですが、うちが2年半前に作らせていただいたYoutube動画は、制作費が約30万。再生回数が3万回弱でしたので、今の段階でそこそこの費用対効果と言えるでしょうか。



昨年ケンタッキーフライドチキンが創業日の7月4日に実施した「オリジナルチキン食べ放題!」は自社サイトとFacebookでしか告知していないのに、お店に人が詰めかけたといいます。価格は1人1200円で、制限時間は45分という内容です。
自社サイトの作りも、淡々としたものでした。ソーシャルメディア上でもどれぐらいの拡散があったのかは定かではありませんし、フードコストや店舗での費用はわかりませんので、ビジネスとして成功といえるのかどうかはわかりません。でも集客という観点では成功でしょうし、ネット上で使った費用も微々たるもののようですから、ウェブを使ったバイラルキャンペーンとしては、最も成功した事例でしょう。
食べ放題という手法がいいかどうかは別にして、成功の要因は、企画の強さですよね。


じゃあ、お金をかけずに共有やシェアされるのは、どういうコンテンツなんでしょう。
卑近なところで、株式会社イグジィットのTwitterアカウント(@EXIT_coltd)では、どんなツイートが拡散したでしょう。
まず、これを見てください。
画像:exitのgapに関するツイート
これは年末に女性のデザイナーが、ただ素敵だと思ってツイートしただけなんですが、これだけリツイートやお気に入りに入れられています。RTで話しかけて来る人も、けっこういました。

同じく、ただ面白いと思って撮った写真とツイートがこんな風になってました。
画像:ted公式によるrt
@EXIT_coltdのツイートに対して映画『ted』の公式アカウントが検索で探してRTしたものが、これだけリツイートされています。

GAPにしても映画『ted』にしても、企業もの。すでにファンが大勢いて、その人たちが拡散してくれたというわけです。もちろんこのふたつのツイート、うちにとってはなんのメリットもありません(笑)
でも、うちみたいな会社のツイートでも、こういう風に広がって行くんだということを学べました。



またまた卑近な例。今度は私個人のGoogle+の投稿です。
画像:私のg+の投稿
これ3月9日の投稿で、DDN Japanの記事からですということも、ちゃんと書いてあります。でも+1してくれたのは、ひとり。コメントも2件という状態でした。


ところが、その二日後。注目&おすすめの投稿というので、こちらの投稿が上がって来ました。私はもう、驚いちゃって。これが+1が98で、共有されたのが41回だって!?


画像:g+の投稿:カリスマによる

いや、そんなに驚いてはいないんですけど(笑) でも二日も早くて、書いている内容も丁寧なはずなのに、どうして? 
この方、一日に何本も投稿されていて、しかも24,648 人がサークルに追加しているというカリスマなG+ユーザーなんですから、当然です。私をサークルに入れてくれてるのは75人ですから、見てくれてる絶対数が違います。
TwitterでもGoogle+でもFacebookでも、持っているネットワークの絶対数とある程度の投稿数がいわゆるソーシャル上の影響力と比例します。当たり前過ぎますが。
私はどれも仕事以外のリアルのネットワークが核で、興味の対象が違うんだから私の投稿に反応してくれるなんてマレです。しかもリアルなつながりがあるから、書けないことの方が多いので、バイラルを仕掛けようなんて気は、さらさらありません。仕事のことなんて書いたって、誰も興味ありません。私がアップする猫の画像を、毎回のようにダウンロードして待ち受けにしているという人がいますが、+1もコメントもしてくれません(笑) 

ではアカペラ動画のことを投稿したカリスマG+ユーザーは、なんのためにやっているんでしょう。どこかに誘導するとか、そんなこともないようなので、たぶん自身の楽しみのためなんでしょう。



整理して考えておかなきゃいけないのは、拡散する投稿とはどういうものか拡散するとどういう効果があるのか。そしてなにより、拡散させたい目的は何かということ。
単純に拡散されたものが、目的にコンバージョンするとか、何かしらの役に立つかは、なんとも言えません。
ソーシャルメディアで著名な人は、とにかく拡散するのもを量産していることが多いですが、それは注目の人になって、出版や講演会等でマネタイズするという戦略。拡散したものが、直接的に役立っているわけではないでしょう。


先のGAPの例は、GAPのネット上での存在感、認知の強化に役立っているでしょう『ted』は映画への観客動員に役立ったのかもしれません。役立ったのは、それが直接的な内容だからです。そもそもの発信元の当社には、なんのメリットはありません(笑)


じゃあもし、メリットあるように仕掛けるには、どうしたらいいか。B to BではなくB to Cであれば、いくらでもやりようがあります。もちろんGAPと同様にアパレルやアパレルの小売り、『ted』のような映画やドラマというカテゴリーだと無理だと思いますが。
実際にうちが手がけさせていただいたケースで、明かせるところだけ書いてみます。

Facebookのある1ヵ月分の[インサイト]です。
画像:fbのinsight画面






























左に付けている色の◯は、ざっくりとカテゴリー分けしたものです。順番はリーチの多い順で、上位15位までを取っています。
下のようにゆるいカテゴリーに分けました。
画像:fb投稿内容のカテゴリー分け
もっともリーチしたのは、(1)の特定のクラスタに向けたものです。もう少しわかりやすくいうと、ファン集団が形成されているものです。上に書いたGAPや映画『ted』みたいなことですね。引用してコバンザメのように投稿したわけではなく、名称を使わず、ファンが読めば伝わるような絡め方をしました。でも口コミ度は、低い。共有されてはいないけれど、多くの人に届いているという、ちょっと不思議な現象。
ただ(1)とほぼ同様の内容で、Twitterでツイートしたところ、1時間で400リツイート越えをし、RTで話しかけられるのも何十件もあり、こわいほどでした。

(2)のお得な情報は、読んでる人は多いけど、やはり自分だけの情報にとどめてる。でも(9)(10)(12)(13)は、(2)と同じことを違う書き方で、異なる画像を用意して投稿しただけですので、訴求力はあると考えられるでしょう。

(5)は「祭りネタ」としていますが、これを出したときには、あまりいい意味ではなく面白がられたり揶揄されたり、否定的な反応も含めて、とんでもないことになるんじゃないかと予想していました。でも出さないわけにいかない。じゃあ炎上マーケティングじゃないけど、話題作りとして活用しようと考えていました。
投稿したところ、否定的な意見も多かったですが、さほどでもない。これもTwitterではとんでもないことに。最初にツイートしてから、RTにまたRTを返したものがリツイートされたりして、たぶんトータルで3000リツイートぐらいかと。
即座に複数のネットメディアで(5)のことが書かれて… まあ、とんでもないことに(笑)
これもこちらから書かれたことを公開し、しかもプラスに転換させるような内容でツイートをしました。するとそれがまた書かれたりと、どんどんバイラルに。
要はマイナスになりかねない発信でも、その反応に積極的に絡んでいくことでポジティブな情報にする方法も見えてくる。放置したり、紋切り型の頑なな公式見解しか出さないのがもっとダメな対応でしょう。

(15)は、いままでにあるものを、切り口を変えて出してみました。すると、この中ではもっともクチコミ率が高かった。たぶん商品にダイレクトな投稿なので、買われる利用されるという観点からは、最も効果があったと言えるでしょう。

(3)(8)(11)も、イベントの告知についてですから、ほぼ同様の内容。違う書き方で、異なる画像を用意して投稿しただけです。


Facebookの[インサイト]を見ても、どかんとリーチしたのは(1)ぐらいで、Twitterでは(1)と(5)はかなり共有されて拡散しています。
費用対効果で見ても、かなりの効果があったと言えると思いますが、それだけでは大した意味はありません。1回1回がそんなに大きくリーチしたり、拡散されなくても、繰り返すことで大きく認知度を向上させたり、興味をそそるということを狙うのが得策です。その時のポイントは、同じ訴求内容でも切り口を変えて、見え方を変えるということ。そしてオーディエンスの反応を観察しながら、という2点だと思います。



実はインサイト画像に出ているタイミングというのは、「イベントへの集客」が最大の課題でした。すべてのソーシャルメディアでの活動は、そこに集中させていました。さまざまな内容の訴求をしながら、イベントへと収斂させていきます。


[インサイト]と同じ時の、リーチや話題にしている人の推移。いいね!やファンの友だちの増減率を見てみましょう。
ちゃんと盛り上がってきています。
画像:fbのinsight画面リーチの増減
















では、同時期のTwitterのフォロワー数の推移を見てみましょう。

画像:ツイッターのフォロワー数の推移
Facebookの推移とほぼ同じですね。FacebookとTwitterでは、投稿している回数もまったく違いますし、内容もそこそこ違います。もちろんオーディエンスも異なります。でも基本的な「反応を見ながら、タイミングや内容を変えながら」という考え方は、同じでやっています。

一度の大きな「共有・拡散」を狙うより、複数回のほどほどの拡散を狙う方が現実的で、効率がいい。そして、徐々に徐々に盛り上げて、目的のタイミングにピークを持ってくる。この方が、はるかに重要だと考えています。



2013年3月8日金曜日

色にまつわるエトセトラ

先日、こんな話を聞きました。ある通販番組に出演されている女性は、ピンク色の服を着られている。その理由は、視聴者を冷静にさせないためだと。冷静にさせないというと語弊があるけど、買い物をする時って、誰しもそれなりにテンションがあがっているだろうし、あがらなきゃ買わないでしょう。そういう意味では、とても理解できます。



今朝、通勤電車の中で、たまたま雑誌『GLAMOROUS』の中吊りを見ました。ピンクが印象的です。
GLAMOROUS 中吊り スクリーンショット

zassi netより











ピンク、黒、そしてメタルカラーのゴールド。けっこうモードな感じで、強い。ピンクはたぶん、ローズピンクと呼ばれるような色で、それほど激しいものではないと思います。
その二、三日前に「週刊女性」の中吊りを見てたら、これがもう、ショッキングピンクからチェリーピンク、サーモンピンク、さらにはマゼンタ100ぐらいまでさまざまなピンクを使ってた。他の色は、黒と薄い黄色だったと思います。わ〜っとテンション上げて、ベチャクチャしゃべりまくってる感じがしました。


色彩心理学などでは、ピンクは興奮を落ち着かせるとされていたと思いますが、一般的に日本では性的なニュアンスで語られることが多い。女性性を現すイメージとしてはその通りだけど、それでも他の色との組み合わせ次第だし、どんなピンクかということに左右される。肌色に近いピンクになると、単純に健康的な印象になるでしょう。


あ、もしかするとピンクって、暖色に寒色が入っている割合が強いほど、怪しさを増して、人を興奮状態にするのかもしれない。マゼンタにシアンを入れていくと、エグさを増す感じですもんね。



だけど色を考える時に、あんまりこの色はこういう効果があるからと考えても、さほど意味がないように思うんです。
以前、テレビ番組でデリバリーピザのメニューについて、主婦の皆さんに意見を聞いている特集がありました。私は偶然その番組を見ていて驚いたんですが、うちがやらせていただいたドミノ・ピザさんのメニューや、競合他社のものを比較されていました。
視聴者には、だんとつでうちのやらせていただいたメニューが「おいしそうだ」と評価されていました。

ドミノ・ピザのメニュー


























その理由について、カラーコーディネーターの方に意見を求めていたのですが、「赤や黄、オレンジなどの暖色系の色を使っているので、美味しく見えるんです」とおっしゃっていました。私は目が点になって(笑)
そりゃあもちろん、食卓の照明だって白熱灯を使うと、料理をおいしく見せてくれる。赤を鮮やかに、また陰影をつけてくれるので立体感が出て、食欲をそそるんですね。そんなことは常識で。だけど印刷するデザインとして、どうやっておいしそうに見せるかというと、まず写真をどう撮るかが最も重要。使う色も暖色系ならいいってもんじゃなくて、濃淡だってあるし、CMYKのべた塗りがいいのか、テクスチャーがあった方がいいのかといえば、その商品によるわけですし。高級なフレンチなら、単純にトリコロールを使ったりはしないでしょう。メキシコ料理なら、多少はくすんだ色の組み合わせが、それっぽいでしょうし。それぞれ、おいしそうに見える条件は違います。

デリバリーものになると、これでもかというほどの情報量になりますが、空間・余白をどう取るかとかと繊細なところにも神経を配らないと、文字が単なる色の模様になって、ノイズになってしまいます。


難しいことを言わせてもらえば、ジェームス・ギブソンの提起した「環境の持つ形、色、材質などの属性が、その環境自身をどのように取り扱ったよいかについてのメッセージを発している」というアフォーダンス理論。この理論では、視覚は静止していても動いていても、光学的変化として空間をつくる物体の肌理(キメ)を捉えている。キメを捉える働きにより、距離を測り衝突を避けたり、熱い過ぎるものや危険な形状のものから遠ざかったする。逆に柔らかく、暖かく、心地いいものには接近を許し、知覚システムとして空気の振動や匂い、体温との温度差、踏んだときの硬さ、触れたときの柔らかさを捉えているといいます。
ちょっと強引に言えば、動物性の食べものなら温かそうで、静止しているよりも少しは動的に見える写真がいいのかもしれません。周囲に使う色も同様に温かそうで、べた塗りよりは質感とともに表現された色の方がいいのかもしれません。接近を許してもらえる心地よさが、必要なのではないでしょうか。


もっとくだけたところでは、『青い象のことだけは考えないで!』という本の中に、「赤と緑とリンゴジュースの実験」という話が出てきます。私たちは、お菓子や飲み物、シロップなどは、その色と結びついた味がすると思い込んでいる。だから赤い色がついているだけの液体を、イチゴ味やチェリー味がすると考えてしまうという結論。
それはもう実験するまでもなく、そういうことなんでしょうね。無防備ですけど。


また『狂言サイボーグ』という野村萬斎さんの本には、「電光掲示板狂言」というものを公演された時の話が出てきます。電光掲示板に人格を持たせ、ケイジくんと名付け、難解なセリフを説明したり、時には直接観客に語りかけ、盛り上げたりされたんだそうです。
「柿山伏」という演目では、文字の「柿」を電光掲示板にたくさん表示させ、それを演者がもいで食べるという演出。
「柿」の文字はオレンジ色で出てくるが、ひとつだけわざと緑色の「柿」を仕込んでおいた。それを演者が食べると「渋柿」だったという遊びもやってみた。オレンジ色で流していると観客は安心しているが、緑だと「いかにも渋いんじゃないか」「まだ熟していない」というイメージが付加価値として加わることになる。これは狂言の型につながる発想である。と書かれています。


型、つまり季語とかと同じ記号、お約束ですね。それで多くの人が、ある重なるイメージを持ってくれる。ただ残念ながら、狂言のように観客が“観る”という構えになっている場合には、強力に伝わる記号、お約束かもしれません。
普通は無機的な記号に対して、“観る”という構えになってくれることは、まずありません。


ただ緑が渋い、熟していないというイメージは、多くの人に伝わるのではないでしょうか。それはきっと、血や肉、体温など生命と関わるプリミティブなイメージだからかもしれません。
グラフィックのデザインでも、ウェブの色使いでも、ほぼ普遍的でプリミティブな記号を使いながら、時代やオーディエンスの状況に応じた演出としてキメの質感。色を考える時には、そんな思考も必要なのではと思います。